肆拾玖 ページ50
No.side
「そういえば、つるまるはなんであのへやをつくったんですか？」
「からくり部屋の事か？」
「そうです」
一人縁側で寛いでいた鶴丸の元にやって来た今剣は、純粋な疑問を彼に投げ掛けた｡
今剣からのその問いに、鶴丸は昔を思い出す様に虚空を見つめる｡
「俺があの部屋を作ったのは、前任から逃げたかったからだ｡
たった一瞬で良かった。俺はAとの思い出に逃げたかった」
前任が居た頃を思い出しているのか、今剣の表情も昏い｡
それを知ってか知らずか、鶴丸の浮かべる表情は何かを懐かしんでいるかの様｡
「あの頃のAはまだ今の様じゃ無かったな。確かそれぐらいの頃だ｡
刀の俺をあの細腕に抱えて、からくり屋敷に迷い込んだのは｡
あれは何処かの貴族がお遊びに作った物だったらしいがな」
「あのころは、こうしてひとがたをとることもなかったですね」
「嗚呼、ただ姿を認識されるだけだったな｡
まあ、あの頃だ。最初はAも特に反応を示さなかった｡
だがな、部屋の仕組みが次第に分かっていくと、表情にこそ出ないが、瞳には色がはっきりと浮かんでいた」
今思えば、あの色は楽しいと言う感情だったんだろうな｡
そう静かな声で呟かれたそれは、然れど今剣の耳にはしっかりと届いていた｡
そうして今剣は悟った｡
「…けっきょくぼくたちは、どこまでもAのことをあいしているんですね」
「だな。本霊の想いもあるだろうが、こればかりは俺たちの想いだ」
鶴丸があの部屋を作ったのは、Aとの思い出に逃げる為｡
その気持ちが痛い程分かるぐらいには、今剣にとってもAとの思い出は大切なものだ｡
「ところで君、折角のAの傍を離れて良かったのか？」
「…ぶちこわしですよ、つるまる」
「ははっ、そりゃすまねぇな。まあ大方Aに一人で行くとでも言われたんだろう？」
意地の悪い笑みを浮かべた鶴丸を恨めし気に見遣る今剣｡
けれどその後に言われた事が図星だったのか、今剣は気まずそうに視線を逸らした｡
＿＿＿＿＿＿＿＿＿
「な…なんで…あんた…」
『嗚呼、矢張り此処におったのか｡
この部屋は鶴丸が作ったのだろう？仕組みが昔と全く同じじゃ』
太鼓鐘は彼女の姿を認めた途端、まさかとでも言いたげに動揺を露わにする｡
『生憎妾は、迷い子を見捨てる程落ちぶれてはおらぬのでな』
そんな彼の様子を気にも留めず放たれた一言に、彼は目を瞠った｡
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1821人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「刀剣乱舞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
乃愛(プロフ) - 初コメ失礼します！私、愛され大好物なので嬉しいです！刀剣男士全員推しなので嬉しいです！更新頑張ってくださいね！ (2023年4月7日 21時) (
レス) id: 3b02df20c8 (このIDを非表示/違反報告)
詩月(プロフ) - 胡蝶蘭さん» 胡蝶蘭さん、感想とリクエスト有難うございます！お返事が遅くなりすみません…続編移行をした際に書かせて頂きますね！ (2019年9月16日 7時) (レス) id: 47903b2cc4 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶蘭 - 最後まで見ました！面白かったです！リクエストで、小烏丸と夢主の夫婦的行動みたいなのが見たいです！小烏丸が皆の父上なら平安組より前から生きてる夢主は母上なのではみたいな？（＞ｍ＜）☆ｵﾈｶﾞｲｼﾏｽ (2019年8月26日 2時) (レス) id: 1fa4972d94 (このIDを非表示/違反報告)
咲くや - 面白くて続きが気になります 更新頑張ってください。 (2019年5月27日 23時) (レス) id: 2369d330ed (このIDを非表示/違反報告)
ゆきな(プロフ) - 乱ってもしかして女の子の格好を禁止されてんなら女の子の服を持って土下座してでも「男の娘になってください！」って言うよ← (2019年5月1日 9時) (レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：詩月 | 作成日時：2019年2月26日 3時
