肆拾 ページ41
薬研side
『この様な丑三つ時にどうした』
「…気付かれてたか」
『何、さして気にする程の事でもなかろう｡
して、妾に何用だ？
薬研藤四郎』
俺の名を呼んだその人は、月の浮かばない空を見上げていたその視線を、此方に寄越した｡
その心情が読み取れない、相変わらずの微笑を湛えて｡
「…あんたに、礼を言おうと思ってな」
『………はて、妾は其方に礼を言われる様な事をしたか？』
「嗚呼。なんなら、礼を言っても言い足りない程の事をな」
ここまで言っても、どうやらこの人は分からないらしい｡
首を傾げて心底不思議そうに此方を見ている｡
「…本当に分からないのか？」
『嗚呼。妾は特段何もしておらん』
「あんたにとっちゃあそうでも、俺からしたら随分な事だ｡
あんたは、乱を、救ってくれただろう」
乱の名を出して、漸く合点が言った様だ｡
けれど、相変わらずその目には理解出来ないとでも言いたげな色が込められている｡
「…俺達の誰もが、乱を救えなかったんだ｡
どれだけ言葉をかけても、彼奴は頑なに耳を貸さなかった」
目の前の其奴は、俺の話を黙って聞いている｡
「情けねえ話だが、後から知ったんだ。彼奴が、俺達の分までその身に背負っている事を」
それを知った時は、まさかと思った｡
だが、考えれば直ぐに気付けた事だった｡
何せ、ある日を境に、前任からの仕打ちがピタリと止んだからな｡
「知って直ぐは、なんで俺達に相談もせずにそんなことを決めたんだ、って思った｡
後から考えれば、相談なんか出来るわけがないって気付いたんだがな」
俺達に相談でもしてみれば、止めたに決まってる｡
けれど、乱は自分一人で背負って、俺達を庇う事を選んだ｡
「今思えば俺の言ったことは、ただ彼奴の想いを踏み躙っただけだった｡
だから本来なら俺がこんな事を言う資格はない｡
けれど、言わせて欲しい｡
乱を救ってくれて、本当に感謝する。ありがとな」
そこまで言って、それまで黙っていたその人が口を開いた｡
『…妾は、何もしておらん｡
妾は救って等おらぬ。彼の者が、自分の足で立ち直っただけだ』
困った様に眉を下げ俺に向けそう言ったその人の目は、何処か頼りなげだった｡
『彼の者は、妾と違い、己の意志でその身を呈して其方らを護った｡
それこそ、気高く強かで美しい、彼の者の本質よ』
その人の言ったその言葉の意味を、俺は真に理解する事が出来なかった｡
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乃愛(プロフ) - 初コメ失礼します！私、愛され大好物なので嬉しいです！刀剣男士全員推しなので嬉しいです！更新頑張ってくださいね！ (2023年4月7日 21時) (
レス) id: 3b02df20c8 (このIDを非表示/違反報告)
詩月(プロフ) - 胡蝶蘭さん» 胡蝶蘭さん、感想とリクエスト有難うございます！お返事が遅くなりすみません…続編移行をした際に書かせて頂きますね！ (2019年9月16日 7時) (レス) id: 47903b2cc4 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶蘭 - 最後まで見ました！面白かったです！リクエストで、小烏丸と夢主の夫婦的行動みたいなのが見たいです！小烏丸が皆の父上なら平安組より前から生きてる夢主は母上なのではみたいな？（＞ｍ＜）☆ｵﾈｶﾞｲｼﾏｽ (2019年8月26日 2時) (レス) id: 1fa4972d94 (このIDを非表示/違反報告)
咲くや - 面白くて続きが気になります 更新頑張ってください。 (2019年5月27日 23時) (レス) id: 2369d330ed (このIDを非表示/違反報告)
ゆきな(プロフ) - 乱ってもしかして女の子の格好を禁止されてんなら女の子の服を持って土下座してでも「男の娘になってください！」って言うよ← (2019年5月1日 9時) (レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：詩月 | 作成日時：2019年2月26日 3時
