File:003 さてと ページ4
とりあえず、状況は理解していただけたようだ。
問題は何も解決してないけど、ひとまず1歩前に進んだ。
「それで。降谷さん?安室さん?」
「降谷でいい」
「じゃあ降谷さん。あなたこれからどうしますか?」
私の問いに降谷さんは少しだけ考え込む。
「ここに、置いてもらうことはできないだろうか……?」
申し訳なさそうに降谷さんは言った。
「それは一向に構いませんけど」
むしろウェルカムですけど。
「全然、取り乱したりしないんですね」
まあ、降谷さんが取り乱すなんて想像出来ないけど。私ならパニックになって泣きわめいてる。
「元の世界に未練とかないんですか?」
そう言うと降谷さんは自嘲気味に笑った。
「混乱しているさ、これでも。未練もないと言えば嘘になる。だけど、俺はいつ死んでもおかしくない生き方をしていたからな。今更、未練なんて言ってられない」
それは、とてもさみしいことなんじゃないか。言おうとしてやめた。私に他人の生き方に口出す権限なんてないし、多分さみしさは降谷さんが一番感じてる。
「そう、ですか」
それでも、全く関係ない私が寂しい気持ちになってしまう。降谷さんの方を見ることができなくてそっと目を伏せると突然頭に温かい感触。
驚いて顔を上げると優しい顔の降谷さんと目が合った。そのままポンポンと私の頭を優しく撫でたあと降谷さんは穏やかに目を細める。
「お前が気に病む必要は無い」
「そう、ですね。……じゃあ、もっと生産的な話をしましょう」
大人には切り替えも大切だ。私はわざと明るい声で話題を変えた。勝手にしんみりしてたのは私なんだけど。
「そうだな。とにかく、俺が漫画のキャラクターだということは理解した。あまり気分のいいものではないがな」
「そうでしょうね……。察してるとは思いますけど、降谷さんには戸籍も住所もないと思います。そもそも存在するはずのない人間なのだから」
「ああ、わかっている」
「と、言うことで。家事をやってくれるなら養ってあげてもいいですよ」
何故か上から目線な口調になってしまったけどスルーだ。
「いいのか……?」
いいも何も。
「先に言い出したのは降谷さんじゃないですか」
「それもそうだが……」
「じゃあ、契約成立ですね!これからよろしくお願いしますね!降谷さん!」
「……ああ」
なんか納得いっていない感じの降谷さんだったけども。
こうして私たちの不思議な共同生活がスタートした。
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