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夜の夢こそまこと/3 ページ37




「 あれ、Aじゃあないか。さっきぶりだねえ 」

「 乱歩さん 」

「 ……大方予想はつくけど。あまりお勧めしない。君、死ぬよ 」

「 死にはしませんよ〜、友達ですから 」

不満そうな乱歩に、川端はへらりと笑う。乱歩は一冊の大きめの本を抱えて、尚も眉を上げたままだ。

「 いや、今の時代転職はネットで探すべきですよね〜、毎度黄色い雑誌買う手間が省けました 」

「 ……ふぅん。森鴎外を裏切ってまで? 」

「 あれはただの少女趣味の中年ですからねえ。親でも何でもありませんし。相手の思う壷だとしてもマフィアと探偵社の衝突は避けられないでしょう。なら、事が大きくなる前に抜けようと思いまして 」

「 ……君にしては随分雑だね 」

未だへらへらと笑う川端の動きが少し止まったのを見据え、乱歩は抱えていた本を掲げた。

「 ここに君の大切な中原中也くんが収納されている訳だけど。 」

「 ……はぁ、そうなんですか? 」

「 取り返したりしないの 」

川端は顎に手を当てて、少し考えるような素振りを見せた。両者とも、お互いの思考は読み切れている訳だけど。

「 いや、遠慮しときます。持ち帰っちゃってください。清々しますよ、正直 」

へえ、と乱歩の息が漏れる。川端は読まれているなあ、なんてことを理解しながらも、歯を食いしばって笑って見せた。

「 ……中也はね。大事なこと全部忘れちゃうんです。頑固で、欲張りで、我儘で、すぐ手が出るし、お酒が入ると面倒くさくて。 」

「 うん 」

「 でもそのくせ、すごい優しいんですよあのひと。私のこと私よりも考えてくれるし、何も言わずに助けてくれる。そんな中也のことが、たぶん大好きだった 」

俯いた川端の瞳から涙が零れることはなかった。光のない瞳の中に乱歩の姿が薄ぼんやりと映し出されている。

「 だから要らない、中也は。私はどこかで絶対にあの優しさに甘えてしまう。迷ってしまう。大丈夫ですよ、太宰がきっとこの騒動は何とかしますから 」

「 ……太宰がね。君のこと恋人って言ってたけど 」

「 そうかあ。……そうなのかもな。私ずっと待ってるんです。いつか太宰が私を夜の底から引っ張りあげてくれる日に、ずっと恋焦がれてる。 」

そこまで聞くと乱歩はどこか諦めたような表情で笑った。君はもう、選択し終えてしまったのか。

「 中原中也君に何か伝言はある?僕が特別に伝えてあげる! 」

「 『 ちゃんと、帰ってこいよ』って伝えてください 」

それも、君達らしいかもね。
じゃあね、A。


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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます!とても励みになります!これからもどうぞよろしくお願い致します! (2020年1月24日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります!更新頑張ってください! (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ねむい | 作者ホームページ:   
作成日時:2020年1月19日 23時

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