夜の夢こそまこと/2 ページ36
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「 A 」
非常事態でより騒がしいマフィアのビル。私の端末に、不在着信と録音が一件。幹部を含め主戦力はほぼ探偵社の襲撃に向かう準備をしている。太宰治、お前が私の名前を呼ぶたび。
「 会いたい。 」
私はこの声を聞くために生まれてきたのだ、と思ってしまう。
「 会いたいよ、A。会いに来てくれないか、私のところまで 」
すべての時間が止まったような気がした。こんな時に何を云ってるんだ。そんな気持ちでいっぱいなのに、なのに。
「 ……そんな、そんな声出さないでよ。 」
莫迦、そんな声出されたら、私。
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死にそうなほど淋しげ。あの男はいつもそうだ。その声で呼ばれたら、いつも結局引き寄せられてしまう。莫迦なのは、私の方なのかもしれない。
「 あの、今はただ眠っているだけなので大丈夫ですよ。 」
「 あ、あぁ、はい……ありがとうございます 」
なんで、病院にいるんだよ。どんな状況で私に電話してきたんだよ。答えなんてもう解っているけれど、ただ知らないふりをしたかった。発信源を特定したら路地裏で、奥の方まで進んだらそこには血の跡があって、嫌な予感は直ぐに的中してしまった。
本当は森さんの近くに居るべきなのに、この淋しいひとの隣からどうも動けない。太宰よりも私のことの方が心配だというような視線を送りながら、看護師さんが個室を出ていった。それもそのはず、私が傍らに置かれた椅子に腰を下ろしてからもう既に4時間が経っている。今頃マフィアは探偵社に突入しているかもしれない。
「 A 」
諦めて今日は帰るか、と体育座りの膝にくっつけた額を上げようとした時、私の名前を呼ぶ声がした。
「 だ、ざい 」
「 おはよう、A 」
「 莫迦、ばかぁ、わたし、 」
「 泣かないで、御免ね 」
顔面に押し付けられているものは病院着なのに、太宰の匂いがした。ぐ、と背中に回される腕の力が強くなって、点滴や輸血パックが音を立てて揺れる。
「 あ、駄目、動いたら駄目だ…… 」
「 あのね 」
私の言葉っていつも遮られる。冷たい管と一緒に太宰の柔らかい髪が首に触れて、くすぐったかった。ナースコールを押そうとした私の指を絡め取った指は、あの頃と変わらず細くて綺麗なまま。
「 好きだよ 」
その言葉は、仰々しい呼吸装置越しにも関わらずやけにはっきり聞こえた。点滴の管がまた揺れる。
「 離したくない、このままずっと。私の生きる意味に、死ぬ理由になって欲しい 。
だから、行っておいでね、私のA 」
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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます!とても励みになります!これからもどうぞよろしくお願い致します! (2020年1月24日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります!更新頑張ってください! (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2020年1月19日 23時