いとなゆびかになつかしく/3 ページ27
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「 あの…ごめ、 」
「 あァ?何で俺に謝んだよ 」
「 中也、覚えてないの? 」
震えた川端の声に、中原は一寸だけ肩を揺らした。川端は驚いたように目を見開く。
「 ……彼奴らの、あの三人の誰かから貰ったンだろ。 」
「 …… 」
「 ハッ、図星か?その外套は昔太宰から貰ったンだろ、俺が知らないと思ってたか? 」
中原は揶揄うように、悪巫山戯をするように、川端の肩に手を乗せる。川端は何も云わず俯いていた。
「 だとすると……あの三下か?確か彼奴… 」
「 ……信じられない 」
「 あ? 」
「 織田作のこと、そんな風に云わないで……中也が覚えてないなら、もういいよ 」
肩の手を振り払い、川端は思い切り中原を睨みつけた。その怒気に、中原は少し後退する。
「 何怒って…… 」
「 厭っ、触らないで!もう、本当に、厭 」
「 はぁっ!?理由ぐらい云えよテメェ 」
「 何で分からないの、私が莫迦みたいじゃん…! 」
川端の唐突な怒りに、中原も訳が分からない儘対抗する。其の儘喧嘩を続けていると、一寸した人集りになってしまった。
「 じゃああの教授眼鏡かよ、尚更許せねえなおい! 」
「 許せねえ、ってなに!安吾に貰ったらなんか不都合でもあるの? 」
「 あ?認めたな、結局あの三人衆のうちの誰かに貰ってたんじゃねえかよ! 」
「 そういう所がほんと厭、中也が分からないことが私は一番厭なの 」
もう構わないで、と踵を返した川端の腕を中原は掴もうとするも、空を切って戻す。喧嘩の原因は「川端がチョーカーを誰に貰ったのか」という単純なことなのに。
「 そう云えばA、酷く大事にしてたな 」
拳を握った、次の瞬間。
がちゃり、安全装置の解除、ぱん、という乾いた発砲音____数秒の出来事であった。
中原の目にはそれがスローモーションのように映る。川端が振り向く。嗚呼、相当腕の良い狙撃手である。
____こんなにも正確に、川端Aの瞳を、撃ち抜こうと。
「 Aッ! 」
数秒の出来事である。
彼女のまわりから悲鳴が上がる。心配しなくても、狙いは川端だけであるのに。
彼女はぎゅっと目を瞑って、迫り来る弾丸を、
「 あっ、ぶねえ…… 」
「 ちゅ、ちゅうや 」
体で受ける、寸前で中原が素手で掴み取る。
熱い鉄の塊が、彼の掌の中でへなりと力を無くす。そうして温度を失って、中原はそれを投げ捨てた。
「 おい、誰だか知らねえが、女の顔狙ってんじゃねェよ 」
逃げろ、と川端の耳にそう届く。
「 どうせ彼奴が持ってンだろ…返して貰えよ、テメェの“大切”なら 」
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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます!とても励みになります!これからもどうぞよろしくお願い致します! (2020年1月24日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります!更新頑張ってください! (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2020年1月19日 23時