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刹那ですか、永久ですか/高峯翠 ページ33

「…っ、夢みたい」

呟く彼女の横顔を眺めながら、これが本当に夢ならばよかったのに、と祈るように空を見上げた。

夜空に大きな光を散らして輝く花火が、いっそ今日の出来事し全て吹き飛ばしてくれればいいのに、なんて考えてしまう。過ぎたものはどうしようもないけれど、不思議とそこに残っているのは後悔ではなかった。これが、これがもし、然るべき関係なら___

「ありがとう。……本当に、ありがとう」
「え……あ、どう、いたしまして」

A、さん。
貴女が流す涙の意味は、初めと変わっていますか。

あわよくば。同じように。
今日出会ったことを、悔やんでいませんか。






この日はたまたま隣町の納涼祭に顔を出していた。暑苦しいのも人混みも嫌いだが、わざわざ電車を乗り継いでまで隣町にやってきたのは、この地域のご当地ゆるキャラのステージを見るためだ。個人的にはかなり好きなのだが、あまり世間受けは良くないらしい。それ故に滅多に表舞台に出てくることもないからこそ、この貴重なステージをひと目見たかった。その日は部活もユニット活動の予定もなく、これは好機だ、と思った頃には家を飛び出ていた。

隣町の納涼祭はそれなりに大きな規模で行われるもので、毎年この町出身のロックバンドがステージを行ったり、若手芸人を呼び寄せたりするステージパフォーマンスがあったり、海岸沿いの海の家に対抗するように呼び掛けの盛んな出店がずらりと並んでいたり、周辺総出で行う家族向けのミニイベントがあったり。町営の海水浴場を会場として行われており、海水浴場の客も含めて毎年県外からも客が来るほどの賑わいだと聞く。

そして、なんといってもメインは最後の花火だ。海上に打ち上げられる無数の花火は、人々を男女年齢問わず魅了し続けている。今年は確か何周年だったか忘れたがアニバーサリーらしく、いつも以上に豪華だと聞き及んでいる。だからだろうか、尚更例年よりも人も多く見受けられる。






「はあ……なんでこうなった……」

お代は持つから!と声を上げて何処かへ行ってしまった彼女を待ちながら、元々持っていたペットボトルの口を捻る。緩くなった水が妙に気持ち悪くて、正に今の心象を示しているようだった。不快。その一点に尽きる。

「お、ま、た、せ、っ!」
「うわっ……!?な、なに……脅かさないで……」
「ごめんってば〜〜、怒んないで!さ、行こ!」

うるさい。
いいからさっさとその手を除けろ、俺を解放しろ。

◇→←◇



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作者名:ねむい | 作者ホームページ:   
作成日時:2019年8月26日 19時

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