【あんスタ】また明日ね、ニュクス【合作短編集】 (ページ24)

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Lacrimosa/巴日和ページ24

ずっと瞼を閉ざしていると、そこにひとつの宇宙が生まれる。最初は、真っ暗闇。徐々に星が生まれていく。ちかちかわきあがる、無数の白い星。大きさは均等。ぎゅうっと目を閉じれば、その速度は超速に。爆発、誕生、爆発。

「シリウス……。おおいぬ座α星を形作る恒星の一つで、太陽を除いた場合肉眼で確認できる最も明るい一等星っすねぇ。

確か、ギリシャ語での意味は……〝焼き焦がすもの〟」

なんで、そんなこと、聞くんですか。睫毛がちらりと持ち上がり、眼球だけがこちらを見る。シェードランプの光をかすかにかぶったきみは今日も、新手の宗教儀式。正直、好きじゃない。でもきみが、他でもないぼくの相棒。ソファーに下ろしていた腰を少し浮かせ、足を組み直す。

「ジュンくんのくせに詳しいね？」
「くせに、は余計ですよぉ。別に、小学生の頃に自由研究でちょっと調べてたことがあるってだけです」

ふて腐れたように、言う。ぼくは目を閉じる。宇宙が、じわじわ広がる。たしかに、ぼくは。こんな暗闇を一人であるく、あの子のためのいっとう綺麗なお星様になりたかった。

「ジュンくん、ぼくはね。あの子のこと、燃やし尽くそうとしたわけじゃなかった」

漆黒。瞼の裏の宇宙の底に、真っ逆さま。多分、宇宙に底なんてないけれど。だとしたら、ここはどこ？

◇

「貴方といると、駄目になる気がするの」

これは、陳腐な別れ話。

「でも決して、日和のことが嫌いになったわけじゃない」

一昔前のメロドラマ。うんざりするほど、大衆的。だけれどBGMは、通俗的な甘ったるいラブソングではなく。どこかの、少なくともこの国の言語ではない歌を、女性ボーカルがしとやかに歌い上げている。
だから、もしかしたらラブソングなのかもしれないけれど。それをこんな悲痛な声で歌うのならば、よくて切ない片思い。さいあく、失恋。破局。ちょうど、今のぼくらみたいな。ああ、だとしたら、逆にぴったりかもね。

「それだけは、信じてほしい」

基本的に言い訳というのは、自己の保守であり。如何に小綺麗な言葉を純潔無垢であると訴えるような瞳で紡ぎあげられるか、それが勝負。だとしたら、ぼくは負けに急ぐ。勝負事、本当なら、絶対負けたくないけれど。

「うん。仕方ないから……特別に、信じてあげるね」

引き際は、美しく。だけどあまりにあっけなく終わらせてしまうと、こっちが信じてもらえないから。少しだけ、意地悪をした。