◇ ページ3
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「 ねぇ、A 」
「 ……なあに、姫宮くん? 」
「 ……ボク、そろそろ帰らなきゃ。パパとママに怒られちゃうし 」
「 一応、伏見さんの許可は取ってあるよ 」
「 ……あっそ 」
シンデレラのようなことを言う彼の、退路を断つようにゆっくりと言葉を投げた。むぅ、と膨らんだ頬が愛らしくて。ほんの少しだけ、彼に仕えている藍色が羨ましくなった。
「 で?まだ、何かあるの? 」
はあ、と溜め息を吐かれた。愛らしい彼の顔を延々と眺めていたかったのに。内心そう思いながら、緩く微笑みかけて、口を開いて。
「 んー……あ、星が、綺麗だね? 」
空を見上げるようにして、言葉に違和感のないようにして。ただ、彼はこの言葉を知らないだろう。そんな期待をしながら、気がついてほしい、とも願った。
「 うん、綺麗だね。ボクは、名前とか、わからないけど……
……というか、無いなら帰りたいんだけど 」
「 まぁまあ。取り敢えず、深呼吸でもして落ち着いてよ。空がこんなに綺麗なんだから、天体観測、みたいな 」
なにそれ、と言いたげに睨みつけられた。すぅ、はぁ、空気を吸い込んで、二酸化炭素その他諸々の不要物を吐き出して、また空気を吸い込んで。くりかえして、立ち上がる。
「 ねえ、屋上に行こう? 」
「 ぇ……別に、
「 わたしが上にいきたいの。ねぇ、いいでしょ? 」
そうすれば、きっと帰してあげられるから。深まる暗闇がいやで、ライトの明かりでもいいから、見晴らしのいいところで、もっと明るい夜を見たいの。
そう言うように手を引けば、渋々ついてくる。……やっぱり、きみのことばは、わたしにとってはカンタレラのような劇薬にしかならないんだなあ。
シンデレラのそれよりも、もっと悲しい魔法。それをしっていて、でもわたしは。
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2019年8月26日 19時