◇ ページ20
ひとりきりの夜がくる。
そっと後ろから忍び寄ってくるみたいに、そいつは酷く姑息で臆病で、だけど決して俺を突き放したりしなかった。この世界に片足だけ踏み入れた瞬間から、そいつは俺とずっと一緒に生きている。
「お兄ちゃん、また明日もあそんでね？」
「うん、やくそく」
「本当のお兄ちゃんだったら良かったのに」
「……俺はそうは思わないよ」
なんで？と聞き返してきたその濁りのない目を、もう一度、
「だって、」
「あ、そうだ！そうだね、そしたらケッコンできないもん」
「え？」
世界の淵を覗くみたいにして、こっちに向けてよ。
「A、おとなになったらお兄ちゃんとケッコンするの」
＿＿ね、いいでしょ？
いつまで経っても、ひとりきり。君がいたなら、ふたりぼっち。でもやっぱ、ひとりぼっち。もし君の手を離してしまっても、きっと笑って受け入れてくれるのだろう。大人だなあ、どうしたら大人になれるのかな。生きている時間を数えるのはもう忘れてしまったけれど、一向に君より先に行けない。
運命愛、苦痛があればそれに伴う痛みは必ずあるもので。夜が来れば、こんな気持ちになる。色の抜けてしまった血液はやっぱり勿体ないから。
これで終わりにするね
．
．
急に、じゃなくて。
ずっとこうしたくて。
あんたにはやっぱり、分からなかった。
「わから、ない」
俺のことが分からない？1番分からないのは、自分なの。許して、どうか許して欲しい。月明かりがキレイな夜だから、頷いて欲しい。冷たい手を握って欲しい。ああ、手が冷たい人は心が暖かいなんて、うそっぱちだったんだな。
なんて、願望ばっかりだね。優しくない世界の色は、日に日に薄くうすくなってく。もう、あんまり時間はないんだな。
「これが、あなたが愛した私なの」
時間は無限だと思ってた。
とおを数えたとき、気付いた。
これは宿命や、呪縛なんかじゃない。俺は、「報われる」ために存在してた。
「そうだよ、この硬い石の中にいる」
「やめてよ、こんなこと。自分の前世なんて、知りたくなかった」
「そう？俺なら知りたいけどなあ」
「やめて」
がたがた震える君の手をとる。あたたかかった。やっぱり、あたたかかった。やっぱり、俺の手は熱を灯さなかった。
「だって、あなたが愛したのは“前の”私なんでしょう」
気付かれたくなかったな。永遠なんてもう要らないや。君は、変わってしまったね、随分。「報われる」ための存在なら、とうに神さまは俺をスタメンから外していいはずなのに、そういう所が好きじゃない。
永劫回帰
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2019年8月26日 19時
