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手を伸ばしても、届かない。ありきたりなドラマの、それこそさっまで撮影していたような、そんな比喩ではなくて、もっと遠いところ。
「ねぇ、」
返答が無い、その事実に触れるのが怖くて、あとに続く筈の言葉は泡となって消える。ぱくぱく。まるで、陸に打ち上げられた魚みたいに息苦しい。
這い上がる恐怖の波に抗えなくて、引きずり込まれるようにして意識が墜ちる。
「(ごめんね、最期まで君に届かなくて)」
指先を掠めるのは、ただ冷たい、何か。
× × ×
「…ちょっと、英智くん!?大丈夫?」
ふと、温もりを感じた。この状況は何?どうして、君は僕の手を握っているの?
「すごく、魘されてたよ?あっ、ええと、この手はほら、何か必死に手を伸ばしてたから、つい…?」
あわあわと慌てる君を見て、漸く理解した。これは、ぜんぶ夢だったのだと。…全く、気分が悪い。
「ふふっ、Aちゃんらしいね。ありがとう。でも、もう大丈夫だよ。」
「そういうときの英智くんは大抵大丈夫じゃないんだけどなぁ?」
ジトリとした目線を送る君は、ひとつ息を吐いて離れる。
「ねぇ、Aちゃん」
「うん、どうしたの?」
「……いいや、なんでもない。」
「なにそれ、やっぱり何かあったでしょ?」
一転、心配そうに僕を見る君。芝居と同じくらい真剣な瞳に、つい言葉を溢しそうになるけれど、誰だってこんな話聞きたくないからね。
「本当に、なんでもないよ。それより、Aちゃんはどうして此処に?」
少し強引に変えた話題にまだ納得していない様子だけれど、それ以上踏み込むことはなかった。君は随分と引き際が良いよね。まあ、そんなところにも惹かれたのだけれど。なんて関係ないか。
それと、もうひとつ、最近わかったこと。君は仕事が有ろうと無かろうと起きるのが早い。時間があればあるだけ、台本に向き合っているんだとか。現に、二人でも広いくらいのベッドの片側は、ひんやりしている。君が此処にいる理由は純粋に気になった。
「そうだ、用事があったから、そろそろ起きる頃かなって思って様子を見に来たの。まあ、それどころじゃなかったんだけどね。」
「うん?今日は何かあったかな。」
「いや、大した用事じゃないんだけど。ほら、今日は揃ってお休みだからね、」
ひらひら、と見せたそれは、読み込んだ形跡のある台本。僕たちの初めての共演作。
「良かったら、少しだけ付き合ってくれないかな?」
……道化の彼ほどではないけれど、あまり人前で見せることのない、すこしだけ不安を滲ませた微笑みを浮かべた君は言った。
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2019年8月26日 19時