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それから俺はなんとなくで日々を過ごして、なんとなく兄者の卒業を見送ってなんとなく最上級生になった。受験生という肩書きもなんとなくだったからゆるゆるだった。
その年は、演劇とかミュージカル、コンサート、美術展。家族がそれにはまってしまい芸術系統に時間を費やした。それが兄者を追いかけてアイドルになろうと思った理由の一つでもある。昔からピアノをやっているからそれなりに関心はあるつもりだったし、なにしろ彼女のいない空白を埋めるのにちょうどよかった。そうやって、何もかも都合のいいように使ったんだ。
つまり、いつまでたっても俺は最低なままで。地獄の奥底にいるような心地がしていた、いつだって。いつだって、最低なままで、自分が大人になる方法を探していた。いつか見た怪人Fのように、地獄の底から、それでも天国に憧れて、時間を持て余して、どんどん恋しくなって。
大人になんてなれてなかったのに、まわりは俺を“ 大人だね ”ともてはやした。そんなわけなかった。勘違いもできるわけなかった。大人の中で育った子供は周りよりも大人びるとか、そんなの嘘で、大人が吐いた希望論で、俺はいつまでたっても子供のままだ。
糸は、絡まったのなら切らなければ解けないんだってこと。
「 …凛月、帰らないのか? 」
「 うーん、帰っても勉強勉強勉強って感じだしなあ、それなら俺はここでピアノを弾くよ 」
「 ふーん 」
「 …まーくん 」
「 ん? 」
息を吸い込む。
音楽室はちょっとだけカビくさくて、でも俺はこの古めかしい匂いがちょっとだけ好きだった。楽譜を立てるための板を差し込む、そのために開いた穴に手を突っ込んだ幼馴染はずっと変わらないから安心できる。
「 俺、まーくんにも、兄者にも、…あいつにも、取り残されちゃう気がするよ 」
時間の流れは案外早くて、耳の横をすっとかすめていくみたいな小さい衝撃と共に生き急いでいる。誰もが皆それについて行けるわけないってことを、“ 時間 ”自体がわかってない。みんなみんな、自分勝手で子供だよなあ。
「 …何言ってんだよ 」
「 ううん、吸血鬼はみんなに先に逝かれて取り残されて孤独の中を生きていくのです 」
「 ばかっ、そろそろ帰んなきゃ怒られるぞ 」
「 ……うん 」
鍵盤の上を彷徨っていた手はいつの間にか鞄を掴んでいて、きっとほんとは俺が気付いてあげられなかっただけで帰りたかったんだと思う。時々、あいつに会いたいなあって思っちゃって、その度にピアノを弾きに来るから、みんな毎日俺のピアノを聴いてることになるよなあ。
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フラッペ - ねむいさん» りっちゃんはいいですよね(^^)独特な雰囲気というか無気力で可愛らしいというか……でもライブではきちんとする所、好きです。更新の方は細かく繊細に書かれているのがねむいさんの作品の良いところですので、自分の思うがままに書いていただければ幸いです……♪ (2018年8月22日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - フラッペさん» ありがとうございます。フラッペさまからコメントをいただくたび、有難いという気持ちで胸がいっぱいになります。お気付きかとは思いますが、私も朔間凛月が一番の推しです。しかし推しほど書くのが難しい!精一杯尽くしていきたいと思いますのでよろしくお願いします! (2018年8月20日 10時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - 新作おめでとうございます(^^)推しのりっちゃんなのでとても嬉しいです……!!もう一話目で「好き」と口からポロりと出てしまいました。ホントにこの作品の続きがむちゃくちゃ気になります。ねむいさんの事応援してます♪ (2018年8月18日 21時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2018年8月15日 23時