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「 …あんた、仕事何やってるの 」
「 …別になんでもいいでしょ、勝手に悲観しないでよ。そういうところが、本当に、 」
俺の帽子は彼女の表情を読み取らせまいと必死に俯いた小さい顔を隠してしまっている。
そういうところが、本当に。
肝心なところは何も教えてくれないで、勝手に自由気ままに、飄々とした態度でふらついて。別に知りたいんじゃないけれど、ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃん。そういうところが、本当に、
「 ……ずるいんだよ 」
それは俺の口からじゃなくて、帽子の陰から発せられていた。未だ顔を上げない彼女の、心からの叫びは、か細い声となって漏れ出る。
「 ……凛月、くん 」
「 俺だって、あんたのことずるいと思うんだけど 」
止まらないよ、止められないよ。一度切った糸は、完全に元には戻らないんだよ。
「 何、本当に。何なの。嫌だって言ってんの、その態度が。その顔も、声も、ぜんぶやだよ 」
_____あいつに似てるよね、あんた。
俺の知らないうちに勝手に大人になってしまったあいつみたいで、反吐が出る。
「 …なんで、あんたにそんなこと言われなきゃいけないの。私のこと、全部全部 」
“ 忘れちゃったくせに ”
ぷつん、糸がまた切れて、どんどん細かくなっていくのをただ見ていることだけしかできない。
「 嫌なの、その凛月くんの、全部が。まるで私と鏡みたい。鏡を見てるみたいに、私たちは全部反対なんだよ。私だって嫌だよ、その顔も声も。全部嫌いだよ、昔から! 」
_____昔、って。
「 会ったことないでしょ、何回言ったらわかるの 」
「 それが嫌だっていってんの。なんで、 」
そこで言葉を途切れさせた彼女は、ゆっくりと手を持ち上げて帽子を外す。初めて見た表情だった。今まで見た人の中で、こんなに余裕がない人はいなかった。メイクは涙でぐしゃぐしゃで、いつものように真っ赤に色づいていた唇は不気味なほどに持ち上がっている。
笑っていたんだ、彼女は。
最初に見た、準備したような笑顔じゃなくて、2回目に見た、自然な笑顔じゃなくて。余裕がなくて、不気味で、不自然で、いっちばん綺麗な笑顔で。
「 ……俺、帰るから 」
「 もう来ないで、もう会わないで 」
「 当たり前でしょ 」
当たり前なんかじゃなくて、当たり前なんてなくて、ほんとは帰りたくなくて、その笑顔を抱きしめてあげたくて、でも自分の気持ちに確証なんてなくて、自分の気持ちが当然なんてことはなくて。
本当にこれは俺の心臓なのだろうか。
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フラッペ - ねむいさん» りっちゃんはいいですよね(^^)独特な雰囲気というか無気力で可愛らしいというか……でもライブではきちんとする所、好きです。更新の方は細かく繊細に書かれているのがねむいさんの作品の良いところですので、自分の思うがままに書いていただければ幸いです……♪ (2018年8月22日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
ねむい(プロフ) - フラッペさん» ありがとうございます。フラッペさまからコメントをいただくたび、有難いという気持ちで胸がいっぱいになります。お気付きかとは思いますが、私も朔間凛月が一番の推しです。しかし推しほど書くのが難しい!精一杯尽くしていきたいと思いますのでよろしくお願いします! (2018年8月20日 10時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - 新作おめでとうございます(^^)推しのりっちゃんなのでとても嬉しいです……!!もう一話目で「好き」と口からポロりと出てしまいました。ホントにこの作品の続きがむちゃくちゃ気になります。ねむいさんの事応援してます♪ (2018年8月18日 21時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2018年8月15日 23時