二度目の人生はあの子が愛した世界で“肆”【文豪ストレイドッグス】

佰肆拾捌 ページ20

『先ず、私は此の世界の者じゃ無い。此の世界に似た世界で生まれ、生きていた』




今改めて思う、本当にそっくりな世界だった。
地名も人物像も何もかもそっくりで、若しかしたら私の居た世界は“可能世界”＿＿つまり【本】の中に無限にある世界の一つだったのかも知れないな、なんて……否、それは無いか。




『私はその世界でマフィア＿＿港湾都市横浜を縄張りにするポートマフィアと云う名の組織に属していた。そして、関東一円に多数存在する非合法組織間での抗争で家族を失ってしまった孤児を三人養っていたんだ』




結、陸、優雪。
彼女達は私の光でもあった。
私に関わらずにいれば、今頃もっと普通の暮らしをしていたのではないかと考えない日は無い。




『或る日、最下級構成員の私に首領から呼び出しが掛かった』




あの日の朝、電話が掛かってきて私は咄嗟に“用済み”、“排棄”、“人事整理”の三つの単語が頭に浮かび、指先が冷たく痺れたのを覚えている。知らない土地に逃げようとも考えたぐらいだ。




『依頼内容は人捜し。その人物は私の友の一人であり、“マフィアの凡てを識る男”と呼ばれたマフィア所属の情報員だった』




名は坂口 炳五。
スクエア型の眼鏡を掛けてスーツを着用し、歳は私よりも下だったが仕事熱心な少し堅物の男だった。




『調べていく内に、彼が欧州の異能犯罪組織“イミテイト”の諜報員なのでは無いかとの疑いが出てきた』




宿泊亭にあった白い金庫。
そこに入っていた徽章の拳銃。
組織の誰もが彼をマフィアの裏切り者だと信じ捕えようとした。




『そこで私はイミテイトが拠点としていると予測された、十年以上前に廃棄されたと云う気象観測所に行き、彼を助け……転がってきた手鞠を手に取り倒れた。逃げろと彼に云ったが彼は黒い特殊部隊と共に去っていった』




私の異能力を知った上での策。
あの場に居た者の中でそれを実行出来るのは炳五、唯一人だった。




『目が覚めると病院に居た。マフィアの幹部である男、私のもう一人の友の部下によって運ばれたらしい。そこで友から、部下が危険に晒されていると聞いた。私は借りが多い人生だったからな、その借りを返す為に助けに向かって、或る一人の男に出逢った』




ちらりと視線をその人物に向ければ相手も此方を見ていたようで、今にも零れ落ちそうな涙を流すまいと下唇を噛んで耐えていた。
そんな彼の頬に手を当て、にこりと微笑めば彼も悲しそうに微笑み返してくれた。

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