二度目の人生はあの子が愛した世界で【文豪ストレイドッグス】

陸 ページ10

｢先ず一つ目、君は自身の名前を云えるかい？二つ目は如何して君は彼処で倒れてたのかな？｣


『名前はAです、名字は判りません。倒れてた理由も余り覚えていませんが恐らくここ何日間か食べ物を口にしていなかったので空腹で倒れたのかと』




名字を名乗ってしまうと裏社会に通じている森さんならば直ぐに戸籍等を調べ上げて私が元々此の世界に存在しないと云う事がバレてしまう為に敢えて忘れたという事にした。


貧民街育ちで親の顔も余り覚えていないと云えば小さい時に親を亡くし路頭を彷徨っていた者という設定が出来るし、元居た世界で本当にそうだったのだから演技もし易い。


二つ目に関してはもう成り行きだ、之しか善い理由が見つからなかった。




｢そうかい……よし、体調の事もあるし次で最後にしよう。君は今迄どうやって生活していたんだい？｣


『……私は貧民街育ちですが、捨てられていた本等を見て沢山の知識を蓄えました。それに加えて傍から見れば珍しい容姿だったらしく、其れを有効活用し仕事を貰い低賃金でしたが何とか御飯にはありつけてました。しかし雇われていた主人が何者かに殺されて路頭を彷徨う事になり、今に至ります』


｢成程、有難う。……あっ、そうだ、A君。今日は此処で休むと善いよ。少し散らかっているが雨風は凌げるし得策だろう？｣




思いもよらない言葉に少し驚く。
此の男は幼女趣味(ロリコン)だとかポートマフィアの首領になるとかしか記憶していないので優しい言葉を掛けてくれるとは思わなかったからだ(失礼な事とは重々承知している)。




『ですが次の仕事場を見つける為にも、私は……』


｢之でも私は医者だからね、流石に体調の優れない者を追い出したり見捨てたり出来ないよ。だから今日は全てを忘れて此処で休み給え｣


『…………有難う御座います』




元居た世界で私が入っていた組織のあの首領にそっくりだと設定を聞いた時は思っていたが、未だ森さんには心がある方だと思った。
正直に云えば、私の情報を少しでも知りたいのだろうが生憎此方はボロを出すつもりは毛頭無い。


取り敢えず今日の処は上辺だけの優しさかも知れないが大人しく甘える事にしよう。

漆→←伍 【文豪世界突入編】

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