弐拾壱 ページ26
「うさんくさっ」
じと目で何かを綴る森を見る太宰。
「横浜租界にある擂鉢街は知っているね?その近辺で最近ある人物が現れたという噂が流布している。その噂の真相を調査してきて欲しい。之は“銀の託宣”と呼ばれている権限委譲書だ。之を見せればポートマフィアの構成員は何でも云う事を聞く」
「誰の噂?」
「中ててご覧?」
「流布するだけで害を成す噂」
太宰は目を閉じ考える。
横浜租界にある擂鉢街での目撃情報。
唯の敵組織なら違う部下に頼む筈だが、それを太宰自身に頼む理由。
而も何故森が態々気にするのか……
そこで太宰はと或る結論に辿り着いた。
ゆっくり目を開けて森の視線を捉える。
「成程そう云う事か。現れたのは先代の首領だね」
「その通り。世の中には墓から起き上がってはいけない人間が存在する、判るね」
「薬約束だよ」
「之が君の初仕事だ。ポートマフィアへようこそ」
銀の託宣を受け取った太宰は微笑した森の顔を見て面倒臭いという表情を隠そうともせずに扉の方へ歩いた__が、ふと立ち止まった。
「あ、そうだ」
「ん?」
「先刻云ってた僕に似てる人って誰?」
嗚呼その事かと納得した森は少しだけ微笑んだ。そして曖昧な悲しみの表情を滲ませて云った。
「私だよ。太宰君、何故君は死にたい?」
その問いに太宰はきょとんとした顔で森を見返した。相手が何を訊ねているか、本気で判らない目だった。
そして云った。あどけない少年の目で。
「僕こそ聞きたいね。生きるなんて行為、何か価値があると本気で思ってる?」
*
「はぁ……」
太宰が出て行った後、森は肺に溜まっていた嫌な空気を吐き出した。
森は思う。
己に必要なものは助手だ。
それは秘書であり、懐刀であり、優秀な右腕だ。
そして何より街医者にして裏切者、権力の
秘密の必要のない部下、氷山の頂上で独り旗を振り続ける自分を
森が招いた太宰とAという誤謬。
だが、誤謬が常に悪いものであるとは限らない
使い捨ての石だと思って拾ったそれは、特大の
血塗られた己の立場には過ぎた願いかもしれない。だが二人ならば、あるいは──。
「特に彼女に対する此の感情は蓋をすべき、か」
切なげに目を細めた森の独り言を聞いた者は誰も居ない。
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黒龍(プロフ) - 様々なオタクさん» もしやSAOの……?() (2021年6月12日 19時) (レス) id: b77228759e (このIDを非表示/違反報告)
様々なオタク - ヴァッサーゴ?!ヴァサゴ?!POH?! (2021年6月12日 18時) (レス) id: eccd7c5314 (このIDを非表示/違反報告)
黒龍(プロフ) - 布教する猫さん» コメントありがとうございます!更新に関しましては不定期になりますが頑張ります^^ (2021年1月16日 11時) (レス) id: b77228759e (このIDを非表示/違反報告)
布教する猫(プロフ) - すっっごく面白いです!!更新頑張って下さい!!(* ´ ▽ ` *) (2021年1月14日 20時) (レス) id: 0899319726 (このIDを非表示/違反報告)
黒龍(プロフ) - じしゃくさん» コメントありがとうございます!そして、そこに気付いて頂けて凄く嬉しいです……!! (2020年3月29日 17時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒龍 | 作成日時:2018年5月21日 1時