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Meguro side
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「分からなくて当然だよ。
そんな経験して欲しくないし、させたくない。
だからずっと分からないままでいいんだよ」
『でもね、』
「違うでしょ、分からないんじゃなくて怖いんじゃないの?
Aくんはさ、よく自分の存在の価値がどれほどあるのか分からないって言うじゃん。
その人を演じるってなった時に、自分が死んでその人が生きられたら良かったのにって思ったんじゃないの?
そんな気持ちでこの役を全うするのも、気持ちを察しようとするのも、怖くなったんじゃないの?」
『………っ、めぐろっ、』
「泣いちゃえばいいじゃん。分かんないって誰かに訴えればいいじゃん。
怖くないよ、俺らは知ってるよ、Aくんがどれだけ今の俺らにとって必要な存在かってこと。
分かんないならちゃんと教えるから。
だから、Aくんが怖いって思うこと、一緒に考えさせてよ。ダメ?」
『………この役、最初から向いてなかったんだよ、考えれば考えるほど分かんなくて、そんな自分が嫌だ』
「向いてないはずがないよ。もしそうなら最初から考えることを諦めてるでしょ?」
ポタリ、ポタリと雫が落ちて木で覆われたテーブルを湿らせる。
"この世界から離れてしまいたい" そうAくんが願った時があったっていうのは人伝に聞いたことがあるけれど、実際に聞いたのは初めてだった。
『今、毎日が、とにかく幸せなの。だからこそさ、こんなに幸せでいいのかな、とか。
自分にはこんなにいい人たちと一緒にいる権利なんかあるのかなって、思ったり、した』
「Aくんはさ、今までに色んな人達に感動とか、そういうの与えてきたんだよ。
事務所に届いてるファンレター最近見た?」
『……見てないや、怖くて』
「一緒に見る?きっと嬉しいことしか書かれてないと思うよ」
その日、酒豪なはずのAくんは足元がおぼつかないほどベロベロに酔って帰りのタクシーの中で眠ってしまった。
家に泊まらせてもらい、朝が随分近くなって突然起きたAくんは隣のベッドで眠る俺を叩き起こした。
正直なんで起こすんだよって怒りそうになったけど、それからAくんに届いていたファンレターを一緒に見ることにした。
何度も何度も涙を拭って、一言さえも読み洩らさないように、彼は大事そうにそれらを読んでいた。
『目黒、ありがとね』
「どういたしまして」
その一言で充分だった。
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作者名:Radu | 作成日時:2021年8月9日 22時