10人目の居場所は、ここに。ー４ー (ページ33)

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『梢』

「やだっ、聞きたくないよ」

『でも、聞いて欲しいんだ』

「そんなに泣きそうな顔で言われたら、聞きたくないよ誰だって」

『今まで散々迷惑かけたけど、これでもう最後だから、お願い聞いて』

「…検査の結果、良くなかったんだ」

『1年だって。同期が診断出してくれたんだけど、泣かれちゃった』

「………いち、ねん？」

『そう、ゴメンね、本当に、これからっていう時に』

「治療で、何とかならないの」

『治療で伸ばして、1年だって。だからさ、』

病室で横になる "大樹"

2年前に二人で撮った写真が窓辺に飾られているが、その時からかなり痩せた様子だ。

診断結果と今後の治療について書かれた資料は開かれることなく無造作に置かれている。

"大樹" は "梢" の左手を握って薬指を優しく撫でた。

彼が何をしようとしているのか察した彼女は手を離そうとするが、"大樹" の方が強い力で握っていた。

「やめて、離してっ、」

『本当にゴメンね。でもこうなった以上、別れて欲しいんだ。1年で死ぬ人間に執着する必要ないよ』

「嫌に決まってるでしょ！」

『梢、よく考えてよ。今俺らは30でしょ？まだ70年残ってるんだ、梢には。おばあさんになって縁側でミカンを食べるまで、まだずっと時間が残ってる。そうでしょ？』

「…だからって、」

『70年の最初の5年ぐらいは時々僕のことを思い出して欲しいな。ちょっと傲慢かもしれないけど、許して。でもそれから先は生きたいように生きてよ、好きな人と幸せな時間を見つけてよ』

「大樹！！」

『これから先ね、僕らは違う道を歩いて行くんだよ。僕は "死" に向かって、君は "生" に向かって。そうでしょ？違う方向に進むこの旅はどこかで終止符を打たなきゃならないと思うんだ。重荷にはなりたくないんだ、君の』

"梢" は静かに涙を溢す。

それを拭おうと "大樹" は手を上げようとするが力が入らなかったのか、そのままベッドに落ちる。

"梢" はガタンと音を立てて立ち上がると、足早に病室から出て行った。

その姿を見送ると "大樹" は眠りに就いた。

【撮影開始から51日目】

カットがかかるとトイレへ駆け込んだ。

鏡の中の自分は、酷い顔色で別人のような目をしていた。

一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、自分という存在が分からなくなった。

多分、"彼" がこの体から抜けきらないのだろう。