検索窓
今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:4,107 hit

わたしをわたしたらしめるもの・翠 ページ29

ときどき、息を止めてしまう。
なんでもないときに、ふと気付くと私は呼吸をしていないのだ。
たとえば、屋上で。
日向ぼっこをしてるときに、私は息をしなくなる。
たとえば、店で。
掃除をしているとき、棚の整理をしているとき、ひいてはお茶会のときにまで。
大抵、誰かに話しかけてもらうと我に返り、また息をする。
どうして呼吸を止めてしまうのかは、わからない。

「翠。」

マスターが私の目の前で手を振っていた。

「……、」
「また息してないでしょ。」

返事をしようとしたのだが、喉が渇いてしまったらしく、声が出なかった。

「はい、水」
「……ぅ…」

謝ることもできなかったので、諦めて水を受け取り、飲んだ。

「はぁ…。すみません、また…」
「いいのよ。死んじゃうちょっと前には我に返してあげるから。」
「できればそれよりもっと早く我に返させてほしいです…」

クスクスと笑って、彼女は振っていた手を頬にあてて、考え込んだ。

「どうして息ができないのかしらね。自覚はあるのよね、ときどき息してないって」
「はい。わかってるんですけど…」

というかさっきまでそのことを考えてた訳なのだけれども。
自分が呼吸を止めるという謎の癖があることは自覚しているのに、息を止めているときはわからない。だから、自分ひとりじゃ息ができないのだ。

「寝てるときは、大丈夫よね。」
「そうらしいですね」

いつもは自分の部屋で寝ているからわからなかったが、前に私以外の皆がいきなり夜中にゲーム大会をはじめて、あまりの騒音に目を覚ました私は仕方なくマスターの部屋で寝かせてもらった。
おそらくそのときに見たのだろう。私は睡眠中はちゃんと息をしているらしい。

「わからないけれど、いつかはわかると思うわ。今は、またその癖が出てもあなたを起こすひとは私だけではないのだし、安心して頂戴」
「そうですね」

私のこの癖を知っているのは、私と彼女だけで、他の皆は私が息をしていないことを知らない。
それでも、私が呼吸してないときに彼らは偶然そこに来て、話しかける。そうやって、私を起こす。
彼らは知らぬうちに、私を救っている。

「何かあっても、私がいるし、皆がいるからね」

そう言って、彼女は空になったカップに紅茶を注ぎ足しに行った。
毎日があるのは、彼女のおかげで、他の皆のおかげだ。
まあ、何が言いたいかというと。

私が私でいるためには、彼らが必要だということだ。

天候と月1 翠→←二人で脱走・白



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
2人がお気に入り
設定タグ:誤字脱字 , オリジナル , 合作 , オリジナル作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:よっけおる x他2人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php  
作成日時:2017年7月12日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。