207．雫代運命譚 − 意味 ページ36
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彼が、余裕なはずはない。
そう見せているだけだ。
先程の戦闘、彼自身を触媒にした呪いの顕現。
曲がりなりにも人形である彼が活動するための霊力は
もう幾ばくも残されていなかった。
五条さんもきっと気づいている。
ここが、彼の活動限界であることを。
『まだ戦う気ですか』
傍らに座り、まっすぐに問う。
常磐はそれを受け止めて自嘲するように笑った。
「いや……もう、いい。
戦う意味は──この手に望んだ運命は消えた。
私の計画だって、君が居なければ意味も無い」
『意味？』
「ま、そうだろうな」
合点したように五条さんが言う。
「Aへの執着心は、
僕とオマエじゃどっこいどっこいだろ」
一歩距離を置いた所から
射るような青い双眸が常磐へ視線を注ぐ。
「オマエの間違いと言えば、そりゃあ一択。
Aを支配しようとした事だ。
自由であるべき翼を力ずくで手折ろうとした。
Aに対する手法として言えば究極の悪手だ」
常磐はそちらに視線こそ向けないものの、
珍しく静かに耳を傾けていた。
「わざわざAの光を潰すような事、僕はしないね」
青い星空と深い森。
一瞬絡み合って、すぐ離れて。
深緑の方の目元が皮肉っぽくゆがんだ。
「まさか最後の最後で、
しかもよりにもよって恋敵(こいがたき)に説教されるとか。
本当に最悪な日だよ」
『え』
「そりゃどーも。……って、はぁ！？ 恋敵ぃ！？」
「おや。てっきり君は彼女を想っているとばかり。
違っていたならすぐに訂正しよう」
「いや、訂正すべきはオマエの発言だろ」
「正しいとも。
少なくとも私にとっては、これが正解だ」
常磐は微かな笑みを浮かべながら、
はっきりとそう言い放った。
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作者名：Sn | 作成日時：2022年2月25日 23時
