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205.雫代運命譚 − 希望 ページ34

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元の大きさの二分の一ほどとは言え、
この森林一帯のどの樹木よりも高い骨山の頂。


浄化しきれなかった呪いが燻る苗床を
押し出された虚無の質量が抉り取っていく。

凄惨に。既に勢いを失った呪禍を圧倒しながら。


バキバキバキ、と。
樹木か骨の折れる音が無数にこだました。


Aの〈神域〉が天恵ならば、
「茈」はまるで天災だ。


真反対の様相。

しかし二つは響き合い、
今まさに一つの災害の種を取り除かんとしていた。





_____嵐のような風が止む。





湖までの景色は一気に開けて、
見るも無惨な残骸だけが視界に映る。


誰もがそう思っていた。




「…!」





パキン、と。

ガラスにヒビが入った時のような音が鳴る。




合図のように。




散乱していた骨の欠片や木々の枝。
全ての災害の跡が光に包まれて、宙空で静止した。




黄金色の光。生命の輝き。

幻想郷のような光景の──湖の中心で、
満月を映す水鏡の上にただ一人立っていた彼女。





『──おやすみなさい』




やはり、不思議と響いた声。

それに余さず応えた宙空の光たちは
重力を浮力に換えて、ゆっくりと天へ昇っていく。


湖のみならず森全体が生命の輝きに包まれる。


銀色の月明かりと融け合って、天に。

星々よりもたくさんの光が天蓋となって夜を照らす。





この光景を正しく評する言葉は一つも無い。

ただ、間違いなく綺麗だった。






〈神域〉という鮮烈な奇跡の上に、
彼女はもうひとつ穏やかな第二の奇跡を積み重ねて。





「A」





聞こえるはずのない声に、彼女が振り向く。

思わずはっとするような大人びた顔で。


まるで聖人のような微笑みを湛えていたAは、
しかし、名を呼ばれると同時に破顔した。



『約束、守ってくれたんですね』



少女のように。

今度は眩しいほど無邪気な笑顔で言うものだから、
一気に肩の力が抜ける。



「ほんとさぁ……誰のせいだと思ってんの」



その約束を否が応でも守らせたのは、
他でもないAだと言うのに。


大きな、けれど心からの安堵を含んだため息。

走り出したくなるのをぐっと堪えて、
「茈」によって広く開けた荒野へ歩き出した。

鏡面の湖へと。



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作者名:Sn | 作成日時:2022年2月25日 23時

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