◆184．雫代運命譚 − 番狂わせ ページ12
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「──……なぜ」
満月が見下ろす夜空の下。
常磐は平穏を貫く湖面を見つめる。
「……なぜ、術が発動しない……？」
夜に相応しい静謐の湖。
自然のさざ波こそ立ちすれ。
先ほど彼が予告した禍々しい怪物などは、
一向に上がってこない。
常磐は自身の背後に立つ漆葉を見やる。
……が、すぐに頭を振った。
「君、ではないな」
少々冷静さを取り戻したらしい常磐は、
まず湖周辺の状況を探った。
ひとかたまりの集団が対岸に一つ。
いくつもの呪力が密集している。恐らく呪術師。
それは開戦前から把握していたことだ。
しかしここで感知範囲を広げた常磐は、
初めて、散在する少数の呪力反応に気づいた。
六か所。
全て、術の発動の要とした地点に。
「……はは、なるほど。
勘がいい上に頭も回る、と来たか」
乾いた笑い。
が、それから幾秒も経たないうちに
常磐はバッと両手を大きく広げた。
瞬く間に地面から生まれ出る精霊。
土から、木々から、水から。
自然の素材をもとに作られる彼らは、
創造主たる常磐の霊力が途切れぬ限り量産できる。
およそ無限に。
「あぁ、いいとも。
ならば全面戦争と行こう」
宣戦。
呪力の数を見るに、
やってきた術師の数は少ない。
恐らく10人にも満たないだろう。
相対して、常磐側。
無限に増え続ける精霊は呪術師には見えない。
鬱蒼と生い茂る森林も彼の味方だ。
全滅させるのは不可能にしても、
彼ら呪術師の消耗を図る策としては十分。
代替計画は、その間に組み直せばいい。
「……仕切り直しだ。
今度こそ始めよう、呪術師ども」
既に埋め尽くすほどの精霊たちの軍団は
今、湖に沿って。
まるで雪崩のように、湖岸へ広がっていった。
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作者名：Sn | 作成日時：2022年2月25日 23時
