27.空中散歩・結 ページ29
▽
『もし、その好意が本当だとしても
本物かどうかは分かりませんよね』
「…つまり?」
『先生が言っているのは異性愛だと思いますけど、
本当は別のものだとしたら』
別のもの。
天涯孤独の私をすくい上げ、
本当の親のように世話を焼いてくれた恩人なら。
それはきっと、親愛に近い家族愛のはずだった。
『私はあくまで、外から来た他人。
本当の子どもなんかじゃありません』
「うん。そうだね」
『…だから、です。
だから、単なる親愛だったはずのものが
少しずつねじ曲がって、』
「……」
『いつのまにか、
そういう意味での“好き”なんじゃないかって、』
「……A」
『っ、勘違いして──』
「A」
長い人差し指が落ち着きなく唇の下に添えられ、
半強制的に口を封じられる。
先生は短く息をついて。
「……ダメ。それ以上は、ちょっと許せない」
瞳。青い、青い瞳。
彼方まで見通せそうな空の色が
ほんの少しだけ、私の知らない何かで濁っている。
かと思えば水飴のような輝きを含んで、
そっと細められた。
「ごめんね」
上滑りしていく小さな謝罪。
ああ、そう、そういえば、あの日と同じ声だ。
ワントーン下がった声。
妙に穏やかで、落ち着かなくなる声。
“結婚しようか”なんて言われた日と同じ。
『せんせ、』
「──…なーんてね! びっくりした?」
ほわっ、と唐突にふんわりする空気。
文脈、時、場所、何もかもにマッチしない変化に
数秒硬直する。
『……え?』
「あははー冗談だよ、冗談。
Aすんごいビビってたねーウケる」
『なっ、…はぁ?』
「おっ、久しぶりに出ましたAのその声」
『冗談って』
どこからどこまで、と聞こうとして、やめた。
代わりに盛大なため息をつく。
『…もういいです。帰りましょう、先生』
「あれ、怒った? 全然星見てないじゃん」
『月が邪魔なんです。今日は綺麗に見えません』
なぜ忘れていたのか。
満月。せっかくの星の光も月に全て食われてしまう。
「えー……あ、ほんとだ」
『ほんとだ、って…確かめるなら上ですよ。
私は空じゃありません』
「だって、ほら。瞳の色」
『…変わってますか?』
「うん。キレーな青色」
目元に手をやる。
そう言われると近くに鏡がないのが惜しい…けれど。
『……早く帰りますよ。皆待ってます』
「え、やっぱり怒ってる?」
分かりやすいご機嫌取りには、
もう乗ってやらない。
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Sn(プロフ) - プスメラウィッチさん» コメントありがとうございます。五条悟オチです。長めのお話になる予定なので、頑張って完結させたいと思います。 (2021年8月26日 22時) (レス) id: 812f073419 (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか?できれば五条悟オチでお願い出来ますか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年8月25日 23時) (レス) id: 6c0ddf792c (このIDを非表示/違反報告)
Sn(プロフ) - Spicaさん» ありがとうございます。励みになります。 (2021年8月25日 14時) (レス) id: 812f073419 (このIDを非表示/違反報告)
Spica(プロフ) - とても面白いです!続き期待してます! (2021年8月25日 14時) (レス) id: 68c958f74e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Sn | 作成日時:2021年7月24日 16時