18＋1 【ヒプノシスマイク短編集】

雨宿り【天谷奴零】 ページ44

『サイアク。』



土砂降りの中1人立ちつくしているのはきっと今世界中で私だけだろう。



"ごめん、別れよう。"

付き合っていた彼の一言だった。


彼を愛していたのに、尽くしたのに。
彼が浮気していたところを見てしまったのだ。




しかも浮気相手とお互いのカラダを重ねているところ。




あーーーー…あの青ざめた顔、もっかいぶん殴ってやりたいな…。





消えてなくなりたい。


そんなことを思っていたら、







「風邪ひくぜ?きれいなお姉さん」






傘を差し出す人がいた。



甘いバニラの香りの奥にツンと香るタバコの匂い。

サングラスの奥にきらりと光るきれいなオッドアイ。





『…ほっといてよ。』





素直になれなかった。

普通は感謝するべき場面なのに。
こんな自分が情けなく感じて涙が溢れそうになる。




「素直になれないお姉さんもいいねェ、」



さ、とりあえず行こうぜ。と言われグイッと引き寄せられる。




彼なりの気遣いなのだろうか。
びしょびしょの私を彼のフワフワのコートの中へと引き寄せた。


不覚にもキュンとしてしまう。



「俺この近くのホテルに泊まってるんだ。お姉さん今夜はそこに泊まっていきな。」


『あ、ありがとうございます。…でもそこ普通のホテル、ですよね、？』



普通のホテル、いわゆる"ビジネスホテル"を指す。

ラブホテルだったら私のありったけの力を使って逃げ出すつもりだった。


ヤリモクとか気持ち悪いし。



「心配すんなって、ビジネスホテルだよ。」



なんだか心の中を見透かされたように思ったが彼は優しく微笑む。




見た目は厳ついのにこんなに優しく微笑むのか…






ギャップが見えた気がして少しだけ彼に油断してしまった。

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