【utit】満月の夜、君は優しく微笑んで…【短編集】【合作】

【うらたぬき】不気味な満月 ひみ ページ6

満月っていうのはとても幻想的であり、不気味さも兼ね揃えているという、どんな惑星よりも綺麗なものだ。
雲に少しでも隠れていれば、少し儚げに思えて、こっちまで影響されてしまう。
そんな不思議な力が満月にはあって、私はすごく好きだ。
だけど…

「俺、満月って嫌いなんだよね」

私が満月よりも好きな彼は、どうやら満月が嫌いらしかった。
理由は聞いていないけど、なんとなくいい思い出ではないということは分かる。
なぜなら、満月を見上げる彼の瞳は悲しそうで、寂しそうだから。
私は手を伸ばして、横にいるうらたさんの頬を優しく撫でた。
今にも泣いてしまいそうで消えそうな表情をする彼に、私は自分は満月が好きだということを言えなかった。
うらたさんは満月に向けていた視線を私へと映すと、悲しそうな瞳に私を映した。

「…前の彼女に振られたの、こういう満月のときだったんだ。…ずっと学生の頃から片想いしてて、やっと付き合えた」

懐かしむように細められていく目は、少しずつ熱を帯びていった。
うらたさんは困ったように眉を下げると、「でも俺といても楽しくないって言われて振られちゃった」と言って微笑んだ。
月の光によって照らされたその笑顔は、私が好きな満月よりも儚げだった。
私はいたたまれなくなって、うらたさんのことを抱きしめると『うらたさん…』と呟くように彼の名前を呼んだ。

『好きです…うらたさん…私と、付き合ってください…私なら、絶対にそんな笑顔にさせません』

きっと、こんなにも傷付いている人を慰めたうえ告白だなんて、弱さに漬け込んでいると思われても不思議ではないだろう。
でも、私はどうしてもうらたさんに幸せになってほしくて、幸せにしたくて…
そのためならば、ずるいことだと分かっていても何だってする。
私がうらたさんのことを抱きしめる力を少し強めると、うらたさんは抱きしめ返してくれて「うん、Aと付き合う…」と答えてくれた。





「やーっと、俺のモノになった…」





もう離さない





空の上の満月は、さっきよりも雲が増えたからなのか、隠れていた。

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