【utit】満月の夜、君は優しく微笑んで…【短編集】【合作】

続 ページ35

そう思った私は、急いで坂田の腕をひいて近くの軒下に避難する。


「雨強なってきたな……A、傘持ってきとる？」


『…うん、一応』


そう言って、カバンの中にある折り畳み傘を取り出して坂田に見せる。坂田は何処か安心したような笑みを浮かべる。…昔っから顔に出やすい奴だなぁ、坂田は。
…にしてもこの傘ちっさいもんだから……坂田と２人で入って家まで帰るなんて出来ないんだよね。てかそんな事したら私のメンタルが持たないし。


『……坂田、この傘使う？』


「…へ？」


訳が分かってなさそうで、素っ頓狂な声を出す坂田。その坂田に、少し溜息をつきながらも簡単に説明をする。


『だから、貸すって言ってんの。坂田こっから家遠いでしょ？雨は弱まる傾向にないし、私はカバンで何とか雨掻い潜って帰る。家近いし』


「いやいや…！A濡れてまうやん！」


『だからと言って、この大きさの傘で相合傘をやれとでも？』


「…それは……そやな、無理やね」


『…ってこと。はい、傘は明日ぐらいに返してもらえばいいからさ』


そう言って、半ば無理矢理坂田に傘を手渡す。
……初恋は終わりを告げたんだ。雨が降り始めたとともに。だったらさ、少しぐらい……我儘言っても、良いよね？どうせ、恋愛鈍感の坂田は気づかないと思うし。
私達は、友達以上の関係にはなれないんだからさ。


「……A、気ぃ付けてな」


『…坂田こそね。……ねぇ坂田』


「なぁに？」


心配そうに、だけど優しそうな笑みを浮かべながら、あざとく首を少しかしげて聞いてくる坂田。
私からの、遠回しでかつ叶わない告白を貴方に。


『……雨音が、響いてるね(大好きだったよ、坂田)』


「…ん？せやな」


さすが鈍感。言葉の意味を知らないみたい……まぁ、雨降ってるしホントに雨音が響いてるなぁぐらいにしか思ってないんだろうな。
別に知らなくていい。知る必要なんて、ないの。いつか気付いてくれれば、なんて。
ごめんね、坂田。性格の悪い私で。こんな性格の悪い奴に好かれて。ごめんね、ごめんね。
もう諦めるから……あの子と、幸せになってね。ちゃんと、告白してね。


『バイバイ、坂田』


「おん、また明日な！」





―――その無邪気で子供っぽい笑顔が、一番大好きだった。

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