たとえ貴方が忘れても【進撃】 (ページ13)

今日:1 hit、昨日:13 hit、合計:4,005 hit

１２ページ13

ベルトルトside

前世での彼女、
それは身分選ばれし人間だったから身の回りのことは全て付き人が行なっていた。

訓練兵で料理当番が割り振られても、包丁の握り方すら分からない彼女は野菜を洗うところから始めた。
(そんなAが……)

綺麗にアイロンがけされたハンカチに、前世の彼女からもう遠く離れてしまったのではないかと不安が募る。

ラ「シワひとつない、家事が得意なんだな」

僕の挙動に困りかねたライナーがすかさず探る様に一言、その一言にAは一瞬困った表情を浮かべた。
でもすぐに

貴「う、うん。小さな時から手伝ってるから」

と取り繕う様に、少し早口で話した。
彼女は変わっていない、今もなお家事が苦手で…それでいてアイロンをかけてくれる人が身の回りにいる。
その場にいる誰もがあの保健教諭のことを思い出したに違いない。

(出会うのが遅かった)

あの人は前世から僕を許してはいない、僕を陥れ苦しめるためにAを手元に置く様子を見せたかったのだ。
記憶のない彼女は、きっとその王子様とやらに既に出会っていた。

ア「じゃあ、試験範囲の事もあるし始めようか」

アニの言葉にそれぞれが筆記用具を取り出し、教科書を開く紙の音がやけに静かな部屋の中で響く。
ライナーはたまにAに、先生が授業中伝えていたポイントなどを話しかける。

せっかく僕のために開いてもらった機会は、たった一つの布によっていとも簡単に自信を失わせた。

・

始めて40分ほど経過した頃に、ピリリと機会音がこだました。
机に置かれたAのスマホに浮かび上がる文字、

それを慌てて隠しつつ
貴「ちょっとごめんね、電話してくる」
スマホを持ったまま教室を出ていってしまった。

隣にいた僕には隠しきれていなかった文字にまた頭痛がする、
様子に気づいた2人は何も言えない様で気まずい空気がまた流れた。

廊下で話しているんだろう、聞き耳を立てると彼女の軽やかな声が聞こえてくる。
僕ら3人は良くないと分かりつつも、

貴「＿＿心配かけてごめんね、いつも。

私の＿＿に」

多少聞き取りにくいが、リヴァイさんとなにか真面目な話をしているようだ。
心配、これはきっと初日に倒れてしまったあの理由のことだろうか。

僕は彼女のことを何も知らないから、相談に乗ることも出来ない。なんて不甲斐ない。

貴「あ、うん＿忘れて＿帰るね」

笑いの混ざった彼女の声が聞こえて、直ぐに教室の扉が開いた。