晩冬の夜に1 ページ8
アメストリス東部で最も大きな街イーストシティ。都会の活気は夜も衰えを知らない。酒場の密集する通りには無数の洒落た看板が連なり、勤めを終えた大人達はこぞって足を運んだ。
そんな通りの一角に佇む酒場で、軍属の男、ロイ・マスタングもまた、例に漏れず一日の仕事の帰りに独り呑みに訪れていた。
「もう一杯貰えるかな」
氷を残してグラスを空にしたマスタングは、カウンターの手前にグラスを置いてそう言った。氷が小気味よい音を奏でると、カウンターの奥の美人のマダムが愛想よく対応してグラスにウイスキーを注いだ。
「もう、あんまり呑み過ぎちゃダメよ?」
週末ということで店内はいつもより賑わっている。
氷を浮かべた琥珀色のウイスキーに口を付け、蓄音機から流れる淡いジャズミュージックに耳を傾ける。うねるようなサックスの音に酒場の喧騒が溶けて、趣のある雰囲気を醸し出していた。
「顔、疲れてるわよ? 最近忙しかったのかしら、マスタングさん?」
林檎の様に赤い唇の前で両手を組みマスタングの顔を覗き込むように見つめるマダム。マスタングは頬を緩めて得意のリップサービスを入れる。
「ああ、おかげでなかなか店に来れなくてね。今日は君の顔が見られて嬉しいよ」
「まあ、お上手ね〜。あまり無理しちゃダメよ?」
マスタングの軽口をさらりと受け流すマダム。
「注文いいですかー?」
「こっち葡萄酒追加でおねがーい!」
「は〜い、今行くわ」
あちこちからの声に、マダムは忙しそうに対応に行ってしまった。
話し相手を失って少し寂しい気分になるマスタング。カウンターの奥の紅茶色の酒瓶をぼうっと眺めながら一人黙って酒を飲む。
照明に乱反射して金色の光を放つあれとよく似た髪色の少女の事を思い出す。
幼いが大人顔負けの錬金術の心得があり、マスタングも彼女の才には及ばなかった。可愛らしい声も、彼女特有の上から目線の口調も、今では懐かしい。
五年前に内乱が終わり、帰郷して彼女に会いに行ったことがある。彼女は、いなかった。失踪したと聞かされた。
納得など、いく筈がなかった。
気づくとまたグラスが空になっていて、初めより一回り小さくなった氷がグラスの底に張り付いていた。
ロイ・マスタング
年齢:29歳(1914年現在)
悩み:顔に威厳がない事
弱点:湿気
所在:イーストシティにあるアパート。居間、寝室、書斎、台所、浴室、トイレ付きのいい所。
(公式設定ではありません。便宜上こう、という事で)
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とむら(プロフ) - すごく面白いです!あの、設定でのイメ画ってウィワクシアさんが描いた絵ですか?なにかのアプリで描いた?ものならそのアプリって教えていただけないでしょうか? (2017年12月31日 22時) (レス) id: fe1253ce58 (このIDを非表示/違反報告)
ウィワクシア(プロフ) - 松本鈴香さん» ご感想ありがとうございます。初めてコメントを付けて頂けてとても嬉しいです。今後の励みとさせて頂きます。 (2017年6月11日 8時) (レス) id: 953d5472a5 (このIDを非表示/違反報告)
松本鈴香(プロフ) - ロイさん好きなので良かったです(*>ω<*) (2017年6月1日 0時) (レス) id: 2ed850d9b2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ウィワクシア・D | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/793fed8a0b1/
作成日時:2017年3月6日 22時