赤ちゃんは……？ ページ33
自由が利かない体を無理に動かして私は目を開けた。独特のにおいでここが病院だと認識する。
次の瞬間、お腹に違和感を覚えた。
水「……いない」
横になっていたら必ず分かるお腹の中の我が子の存在。腕を動かそうにもうまく動かない。
と言うよりも体は麻酔がかかったみたいに感覚がない。
水「……どうして……」
考えられるのは二つ。麻酔をかけての帝王切開。二つ目は考えたくはないけれど流産。
でも、９カ月目だから流産していても生きている可能性はある。
あの痛みが陣痛だと考えれば。
とにかく、誰でもいいから状況を説明してほしかった。
目尻から涙が溢れ落ちる。声を上げることもできない。ただ淡々と私は泣き続けていた。
その時、コンコンと病室の扉が叩かれた。でも、私は声を出すことすらつらい。
光「失礼します。……って颯ちゃん！」
泣いている私を見て、光ちゃんが大きな声を上げた。すぐに傍に近づいてきてくれる。
光「颯ちゃん、痛い？傷口、やっぱり痛むよね？待ってて、看護師さん呼んで痛み止めの点滴してもらうから」
光ちゃんはそのままナースコールを押した。ものの数十秒で看護師さんが来た。
看「伊沢さん、目が覚めたんですね。待っていてください。すぐに痛み止めと栄養の点滴をしましょう」
看護師さんが点滴の準備をしている間、私は何とか声を出して光ちゃんに赤ちゃんのことを聞いた。
水「ひか……あかちゃん」
また溢れてくる涙。光ちゃんは点滴されていない方の手を握ってこう言った。
光「赤ちゃんだよね？大丈夫、帝王切開になっちゃったけれど元気だよ。今保育器に入っているの。でも、颯ちゃん……颯ちゃん自身は危なかったんだよ？」
赤ちゃんは無事。それを聞いた瞬間、私の目から安堵の涙が流れてきた。
光ちゃんはもう一回手を握りなおして言葉をつづけた。
光「颯ちゃん、颯ちゃん自身は危なかったんだって。栄養不足で鉄分も足りなかったの。だから輸血して、それでも丸二日目を覚まさなかったんだよ？」
自分の状態を聞いてそんなに酷かったのかと私は思った。
そこに準備を終えた看護師さんが点滴を繋いでくださった。
光「とりあえず、私、伊沢さんたちに颯ちゃんが目を覚ましたって伝えてきますね」
光ちゃんは早足で病室を出ていき、私の右手にボタンを握らせた看護師さんも「何かあればすぐに押してください」っていって部屋を出て行った。
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作者名：南 | 作成日時：2021年1月26日 16時
