おとぎのはなし 1 ページ18
ここはどこだ、と
少年は言った
それもそのはず
少年のいた時代から何百年も前の世界に
少年は来てしまったのだから
戸惑う少年を余所に、長閑なその場所は佇む
大きな屋敷と、少年のいた時代からは想像もつかない緑が山々に囲まれた盆地
これは夢なのか、と
夢ならば覚めるはずだ、と
しばらく少年は様子を見ることにした
緑に囲まれた大きな屋敷に寝泊まりし、屋敷に書き置きされた通りのことをして、時が過ぎるのを待った
一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月
何日、何月も経ったが、その"夢"は覚めることなく
ただ、その屋敷には人が集まるばかり
帰ることが出来ぬまま、少年は一日一日を記した
"もとの時代に帰りたい"
"今日も帰れなかった"
"このまま、一生を遂げるのだろうか"
そんな少年を、他の人達は見ていた
"嗚呼哀れなる少年よ、希望などないぞ"
"そなたは見捨てられたのだ"
あまりに純粋な少年を見兼ねた人達は
その少年の記憶をすり替えることにした
そして、記憶をすり替えると共に
自分達も消え去った
屋敷の記憶を『 』して
少年の記憶を『 』して
自分達の記憶を『 』して
そして、新たな少年の記憶と共に
そのヒト達は少年の前に現れることとなる
＿＿＿＿＿＿＿
ホコリを被った紙には、話が書き殴られていた
わざと空けられたような記憶の操作内容
舐めるように見ると、そこには"元"と記されていた
もしかしたら、他にも紙があるのかもしれない
でも、今はそんなことよりも
この話が本当なら
この話が僕のことだとしたら
違う、これは僕のことだ
なんて、不思議と分かっていたから
これは僕の真実なんだろうな
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作者名：兎雨華 | 作成日時：2017年1月26日 3時
