嘴平伊之助さん 参 ページ20
「お八つを食べる前に、今日は少しお昼寝しよう。」
そう言って布団を持ってこようと思い立ち上がる。
と、同時にくいっと引かれる羽織の裾。
そんなことをするのは一人しかいない。当たり前だ。
だってこの部屋には私と伊之助しかいないのだから。
「伊之助、引っ張られてると歩けないよ。」
「……布団、いらねぇ」
「あら。それじゃあ疲れがとれないよ?」
「ごちゃくそうるせぇんだよ!この俺がいいって言ってんだからいいんだ、わかったか!!」
「わかった、わかったよ。
ほら、落ち着いて。静かに。」
人差し指を唇に当て、しーっと合図を送る。
するときゅっと口を閉じて、私の足に全身を沿わせるようにころんと寝転がった。
優しく頭を撫でてやり、この愛しくて可哀想な子に寄り添った。
まだ閉じられていない、深く美しい翡翠の瞳が私を捉える。
「いつものアレ。
じゃねぇと寝れねぇ」
「お易い御用だよ。
手は?」
「……ん。」
きゅ、と握られた手はごつごつとして硬く、立派な剣士の手であるはずなのに
今数本の私の指を握っているこの手は、なんだかとても小さくて柔らかく感じた。
「こんこん 小山の子兎は
なぁぜにお耳が長うござる──」
「小さい時に母様が 長い木の葉を食べたゆえ」
「それでお耳が長うござる」
とん、とん。
優しく背中を叩いて、伊之助のお気に入りの子守唄を歌ってやる。
するとすぐに目を閉じ、赤子のように握った私の指を自分の口元へ引き寄せたのだった。
「Aの隣は……ホワホワすんな」
「眠てぇ…」
ぽつ、ぽつりと小さくも呟かれていく言葉に私は安堵し、そっと上から伊之助の目を伏せさせた。
「ゆっくりおやすみ。
大丈夫。伊之助の傍にいるからね。」
その言葉が聞こえたのかはわからない。
だが、すぐにすうすうと寝息を立て始めた伊之助。
その寝顔は、炭治郎くんから聞いたものよりとても穏やかなものだった。
ひら、と落ちた花びらは、柔らかく暖かい色をしていた。
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三色 ─みしき─(プロフ) - 煉獄推しさん» 申し訳ありません。只今リクエストは受け付けていません。 作品を読んでくださりありがとうございます (2021年7月4日 10時) (レス) id: d6f8835509 (このIDを非表示/違反報告)
煉獄推し - リクエストオッケーですか?オッケーなら、返信が来たときに送りたいのですが… (2021年7月2日 18時) (レス) id: c685ed7b70 (このIDを非表示/違反報告)
すい(プロフ) - みしろさん» いえいえ、拙いだなんてそんな!みしろさんの作品大好きです!いやいや、私こそ様なんて付けなくていいのですよ…!あわわ、ありがとうございます…!変則的なので不安ですがもそもそ活動していきます…! (2019年7月4日 2時) (レス) id: ebec16ed5f (このIDを非表示/違反報告)
みしろ(プロフ) - すいさん» なんと……!!私の拙い文章を読んで下さっていたとは!!有り難き幸せ!!様なんて付けないでください!!むしろ此方が様を付けなければいけないような……(?)すい様のペースで良いのですよ…… (2019年7月4日 2時) (レス) id: 509e58e731 (このIDを非表示/違反報告)
すい(プロフ) - みしろさん» みしろ様 ひょえ〜ッッ!ありがとうございます…!実はこっそりみしろ様の作品を見てましてひっくり返りそうになりました…。ありがとうございます、まったりと更新していきますね(´▽`) (2019年7月4日 2時) (レス) id: ebec16ed5f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:三色 | 作成日時:2019年6月17日 3時