. 254話 頼み事 ページ28
｢…蹴り技を教えて欲しい?｣
彼女は少々訝しんだ様子で僕を見つめた。決して煩わしそうな表情ではなく、純粋に言葉の意図を測っているんだろう。
『…実は、腕に負担をかけないために足技に重点を置いてみようと思ってるんだ。
僕のイメージでは飯田くんと神崎さんみたいな。個性的に、神崎さんの助言が聞きたいと思ってさ｣
そうやって懇切丁寧に事の経緯を話せば、彼女は納得したように頷き、次の言葉を発しようとする僕の眼をじっと見つめた。
『これは僕の身勝手なお願いであって、…自分の練習もあるだろうから、全然断ってくれていいんだ』
断られる可能性の方が高いと思ってた。1週間後に迫る仮免試験は、ヒーローに1歩近づくためには必ず合格しなければならない。
完璧主義の基質を持つ彼女はこの通過点で躓くことを酷く嫌うはずだ。それでも話を持ちかけたのは、彼女への小さな甘えと彼女の放つ危うさが起因していた。
後者は正当化するための言い訳にも思えてしまう。けれど、何も映さぬ瞳を見て見ぬふりはしたくなかった。
今、繋ぎ止めて置かなければ後悔すると思った。風が吹けばそのまま攫われてしまいそうな脆さを垣間見てしまったから。
彼女は一度瞳を揺らしてから、｢別にいいよ｣と短く答えてくれた。表情に似合わず柔らかい声だった。
揺れた瞳のわけが分かるかもしれないというのはきっと傲慢な考えだろうけど、…彼女は今、僕らと関わることを躊躇っているんだろう、漠然とそう思った。
**
『神崎さんって、もしかして空手やってた?』
額を伝う汗を拭いながら彼女を横目で見る。水を飲んでいる彼女は依然として涼しい顔をしていた。
密かに、僕は今まで神崎さんを目標に見据えていた。けれど実際に対人格闘をつけてもらうと実力の差を感じる。そんな折、前々からの疑問を投げかけてみた。
｢中学に上がるまで。よく分かったね｣
神崎さんは、自分の訓練もあるからあまり時間は取れない、と言っていた割には親身になって闘い方を教えてくれた。
『すごいと思ったことは全部ノートに纏めてるんだ。調べてみたら空手が1番特徴が合うかなって』
｢もしかして、そのノート?｣
今日は神崎さんからのアドバイスを書き込むつもりで持ってきていた。
小さい事からずっと続けてきた行為ではあったが、昔とは大きく違う意味を持つそれを、手繰り寄せて表紙を撫でた。
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マヨケリ(プロフ) - コメント失礼します🙇ほんとに面白くて一気に読んでしまいました！！ (4月22日 20時) (
レス) id: 25632ac130 (このIDを非表示/違反報告)
ムーン - いつも楽しく読ませていただいています！個人的に夢主がめちゃくちゃ好きです！続き楽しみに待ってます！ (3月29日 19時) (レス) id: 4501a4fd46 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - あめみやさん» 読んでくださってありがとうございます。あめみや様のような応援コメントにいつも励まされています☺️ (11月13日 8時) (レス) id: 4d64a1450f (このIDを非表示/違反報告)
あめみや - 久しぶりに見たら神野の悪夢編終わってて目が飛び出しました！これからもご自身のペースで更新頑張ってください！！ (11月11日 19時) (レス) id: dd94fd2279 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 司さん» ありがとうございます^^自分でもこの先どうなるのか分からなくなってきましたが完結までは必ず持っていきます! (9月16日 13時) (レス) id: 4d64a1450f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：レイ | 作成日時：2023年7月25日 18時
