さんじゅういち ページ35
「わ…私は」
ついさっきお茶で喉を潤したはずなのに、いつの間にか喉はカラカラに乾いていて上手く言葉を発することができなかった。
この重たい雰囲気の中、さっきまで私は一体どのように話していたのか分からなくなった。いつまでも声帯を震わせることのない喉とは裏腹に視線ばかりがあっちこっちに泳いでいた。
三反田くんは一言も発することなく私を見つめている。弥彦くんもついに顔だけを私の方を向けていた。
「私には…小さい弟がいるから」
ぎりぎりで絞り出したその一言は間抜けにも震えていて。きょろきょろと忙しない私の視線の端には訝しげな表情をした三反田くんと弥彦くんが入りこんでいった。
「小さい子に手を出そうとは思わない」
自分の意思だけはしっかり言わなければと自分を叱責して無理矢理に視線を上げて三反田くんの丸い瞳をまっすぐ見やる。最後に小さく、もちろん君たちにも、と付け加えた。
またもや重たい沈黙が保健室に落ちた。底なしの沼に頭のてっぺんから足の先まで浸かったみたいに息苦しくて体が重たい。
あまりにいたたまれない気持ちになって、私は視線を畳の目に落として気まずさを紛らわした。膝の上に置いた手は小刻みに震えていた。
幾らかの沈黙の後、空気が揺れた。
「口先だけならどんなことでも言えるんですよ」
その通りだと思った。口先と頭では言うことが全く違う人だって世にはいるんだから安易には信用できないだろう。三つ下の子供に諭されるなんてと羞恥で頭がカッと熱くなるのを感じた。
それでも話は終わらなかった。
「でも行動は嘘をつきませんよね」
鼓膜を優しく撫でる優しい声が聞こえてきてゆっくり顔を上げた。
そこにいたのは一体誰なのか。背筋を凍らせるような冷たい視線は跡形もなく、棘のある口調も取り払われていた。
藤色を軽やかに揺らす、困ったような顔をした少年がそこに居た。
「僕はあなたを信用することができますけれど、他のみんながそうではないことぐらいあなたも分かってるでしょう?」
くれぐれも目立つ行動はしないようにしてくださいね。と付け加えた三反田くんの表情は、窓から入ってきた風にあおられた髪で見えなかった。
ただ、優しい顔をしていたことは分かった。
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来週も学校があるので更新が遅れます。(あれいつものことですね)たくさんの人がこの作品を見てくださるようでとても嬉しいです。
これからもこの作品を見ていただけると嬉しいです。いつもありがとうございます!
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セナ(プロフ) - Ry osdさん» ありがとうございます!とても嬉しいです!励みになります!今はスマホの方で書いているのでIDが違います。ややこしくてすみません。 (2020年3月29日 3時) (レス) id: 9a1a35c746 (このIDを非表示/違反報告)
Ry osd(プロフ) - ゆっくりでいいので楽しみにしてます。 (2020年3月29日 1時) (レス) id: d9cf167b43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:利世 x他1人 | 作成日時:2020年2月22日 14時