記憶 (ページ7)

今日:4 hit、昨日:14 hit、合計:5,474 hit

7 ページ7

講義の後のバイトを終え、帰宅したのは夜の11時。

掃除のために少し早起きした事もあって、いつもより疲れが溜まっている。

(ご飯いいや…お風呂入って寝よ。)

パジャマを準備しようと思ったその時、インターホンがなった。

また末澤さんだった。

「ごめんなー毎日来て。これ花子ちゃんにあげようと思ってな。」

緑色のおしゃれなスウェットから、また甘い匂い。

末澤さんが手に持っているのはタッパーに入った肉じゃがだった。

「花子ちゃん朝テンション低かったから、疲れてんのかなと思って、おすそ分け。」

また、へらっと笑う。

「あ、ありがとうござい…」

言い切る前に、泣いてしまった。

こっちに来てから初めて人の優しさに触れて、

思わず涙が出てしまった。

やばい、引かれる。肉じゃがくれただけで泣くとか。

顔を手で覆い隠そうとすると、右手をそっと握られた。

はっとして顔を上げると、末澤さんはあまりにも優しい眼差しでこっちを見ている。

私の右手を、一回り大きい左手で握っている。

「花子ちゃん、無理せんでな。これ食べてゆっくり休むんやで。」

そう言って手を離し、タッパーを渡すと、左隣の部屋に戻っていった。

手の温もりが無くなって、触れられていたところだけすごく寂しい。

もう一つ末澤さんについて分かったこと。

優しさを置き去りにする、ズルい人。