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【74】 ページ28

_12年後。

「おせっかいおばさんペット飼うの?この顔面潰れてる猫にしなよ。似てるし」
「経営者呼んで〜ここの店員客にあるまじき態度取ります〜」
「一々ンなことでオレ呼ばないでくれよ。ほぼ身内だろ」
「親しき中にも礼儀ありって言葉があるでしょうよ」

あれから無事高校も卒業し、大学進学を経て現在会社員数年目。
千冬くんとは頻繁に連絡を取り合っていたせいか今でもこうしてよく話をする。
まさかペットショップを経営するとはさすがに思っていなかったけれど、動物好きだった場地くんの夢を継いだのではないかという話だった。
そして、何時ぞや会いに行った男、羽宮一虎くん。彼も出所後はこのペットショップで働いているらしく、こうして私に会うたびに悪態をついてくる。

「今度から一人暮らしするんだよね。弟たちにせかされちゃって」
「あれ?今幾つだっけ。結構下だよな」
「大学三年生。彼女呼びづらいからってさ」
「は?成人してんの?時間の流れ怖ぇ〜」

時折時間を見つけてはこの店に入り浸っていたが、ついに本当に客になる日が来たらしい。
選べないくらい可愛い動物たちに骨抜きになりながらガラス越しに眺める。
隣で「鼻の下伸ばすなババア」と暴言の限りを尽くしてくるお団子頭は無視した。

場地くんが消えたあの日から、もうかなりの時間が経つ。
既に彼の声がどんな音をしていたのかは覚えていていない。
重ねた手の感覚も忘れてしまった。
けれどはっきりと、彼の笑った顔は覚えている。
度々千冬くんから写真を見せてもらったからというのも勿論あるけれど、それ以上に忘れたくなかったのだと思う。
一生で一度の恋だったと、今ならはっきり言えるから。

「で、場地さんの生まれ変わりとは会えたのかよ」
「会えるわけないでしょ。千冬くん、そういうロマンチックなのよく信じてるよね」

正直、会ったところで、だ。
私の年齢は既に三十手前というところまで来てしまっているし、この年になって運命を信じるなんてことも出来そうにない。

「…まってごめん会議の時間ヤバイ!ごめん、もう行くね!じゃ!」
「あ!?おいヒールであんまり走…いっちまった」

ヒールなのも気にせず駆け出した、瞬間に、足を踏み外して頭から思い切り転んで足首を捻った。
決して歩けなくはない。
けれど、これは立ち上がるのに苦労しそうだと思っていれば、前方から突然手を差し伸べられて顔をあげる。
そこにいたのは小学校高学年程度の、ランドセルを背負った少年だった。

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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時

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