【最終話】 ページ29
「すげぇ勢いで転んでたけど、大丈夫か?」
「え?あぁ、ごめんね、ありがとう」
小学生にしては身長が高い。
親切な小学生の手を取って立ち上がる。
膝は擦り剝けている上にストッキングは破れていたが、予備は鞄の中に入っているし、この位であればどうということもないだろう。
どこか心配そうな顔でこちらを覗き込む少年を安心させるように、「大丈夫!」と声をあげれば、少年は驚いたように肩を揺らした。ごめん、驚かせるつもりはなかった。
「めちゃくちゃ血出てるけど」
「出しとけばいつか止まるし」
「なんでそんな当たり前のことみたいにンなこと言うんだよ!」
「大人だからね、色々知ってんのよ私は」
ふふん、と自慢げに鼻を鳴らせば、少年はじとりとした視線を私に向ける。
心配してくれている人に対して少し失礼な態度だったかもしれない。
「改めて、手貸してくれてありがとね」とお礼を言えば、少年は照れたように頬を掻いた。
そのしぐさが、かつての場地くんと重なって自然と小さな笑い声が漏れる。
「…何?」
「あ、あぁ…ははっ、違うの。凄く知り合いに似ててさ。その子も照れるとほっぺ掻いたり首の後ろ搔いたりしててさ、わかりやすかったなぁ」
「へ〜。オレと癖一緒じゃん」
若い時に流行る癖なのだろう。
かっこいいよね、頬を掻くのも首を掻くのも。
なんだか懐かしい雰囲気を持つ少年と暫し歓談していると、ぱっと視界に入った時計の秒針で現実に戻される。
そういえば、ペットショップだって会議があるからと抜けてきたのだ。
こんなところで少年と歓談に興じていました、なんて遅刻理由にも書けるわけがない。
「じゃ少年、私この位で行くね!ちょっと、仕事がね!」
「仕事ならさっさと行けよ」
「そうさせてもらう!じゃ、さっきはありがとね!」
今度はヘマをしないように早歩きで。
擦り剥いて血を流していた傷も、今ではすっかりと血が止まったようだった。
ペットショップで場地くんの話をした日に、彼とよく似た小学生を見つけるとは、今日は運がいい日かもしれない。
このまま会議もうまくいけばいいなんて思いながら会社への足を速めた。
「…」
「ケースケ?何見てんの?」
「別に!なんでもねぇ!さっさと行こうぜ!オレのゴキ見せてやるよ!」
忘れないと、待っていてくれと、最期に彼は私に言った。
何年も経った今、また再び私と出会って恋をしてほしいなんて言えないけれど。
けれど、願わくば。
__彼が幸せでありますように。
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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時