【61】 ページ15
いつもよりも気合の入った服装に、軽くだけ手を入れた化粧がなんだかむずがゆい。
リビングに出れば弟たちが目を丸くしながら「いつもと違う！」と大きな声で指をさした。
12月18日。
場地くんに私がお願いした最後の日は、駆け足するようにやってきた。
「今日は姉ちゃんはいないけど、どうするんだったでしょうか！」
「はい！」
「はい尚。早かった」
「ご飯が冷蔵庫にあるから、チンして食べる！」
「そう！じゃあ夜ご飯は？」
「お父さんが作ってくれる！」
「正解です。じゃあ、いってきます」
いってらしゃい、と投げられた大きな声に手を振って家を出る。
待ち合わせの時間よりも少し余裕をもって、私が向かうのはいつもの墓地。
墓参りに来ている人間は今日もほぼおらず、既に体に染みこむように記憶されている道順通りに母の墓まで向かって手を合わせた。
「おい」
幸いなことに今日はよく晴れている。
冬だから気温こそ低いものの、それにしたって随分と過ごしやすい。
今日は綺麗な夕日が見れると、天気予報のお姉さんもそう言っていた。
「A」
名前を呼ぶ声がして振り返る。
そこには不機嫌そうな顔をして立っている場地くんがいて、少し口元を緩ませながらどうしたのかと問いかければ、不機嫌そうな眉間の皺がさらに深く刻まれた。
「無視すんな」
「ごめんね」
「いいけどよ」
行こうぜ、と声を掛けて、それから歩き出す場地くんの後姿を眺める。
うんと一つ頷いて、歩き出そうとした瞬間に一抹の違和感。
一瞬だけ、溶けるように透けて見えた場地くんに、頭の中で理解した。
泣いても笑っても、やはり今日が最後なのだろうと。
立ち止まった私を不審そうに見つめる場地くんに笑いかけて、今度こそ一歩を踏み出した。
「プラネタリウムだっけ。そんなのあるんだな」
「あるよ。都会の人間、星に飢えてるからね」
場地くんと会話ができる時間が、一秒でも惜しい。
野外ではっきりと話しかけてきたことが不思議だったのか、場地くんは一瞬戸惑ったように視線を彷徨わせる。
それでも何も言ってこなかったのは彼の優しさだろう。沢山、気を遣わせてしまっていた。
「ごめん、浮かれちゃって」
「なんで謝ってんだよ」
「見苦しいかな、って」
言葉を続けようとして、そして、ふと、自分の手を見て言葉を詰まらせる。
「繋げねえけどさ、それっぽいことしていこうぜ」
重なるみたいに合わせられた手に体温は感じない。
それでも、苦しいくらいに切なくて、恋しかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 74人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「東京リベンジャーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (
レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：晴海 | 作成日時：2021年10月7日 21時
