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時間が過ぎるのは思った以上に早かった。
食事の準備をしてみんなで食事をとり、弟たちが入浴したのを見送った後にシャワーを浴びる。二人が寝静まったのを確認して、私と場地くんは再度手紙に向き合っている。
流石に何十回とこう繰り返すと慣れてきた。
それでも体は疲弊するようで、何十回目の体から何かが抜けていく感覚にぐったりと体を横にした。

便箋の枚数は二枚と半分。
時計の針は既に深夜を指している。思わず零れた欠伸は生理的なものだ。

「…寝る」
「おぉ。付き合わせて悪かったな」
「別にいいよ。完成してよかったね。お母さんいつ家にいるの?」
「いつでも…あ、確か水曜は休み」
「土日は?」
「まちまちだな」
「じゃあ水曜日ね」

連絡も取らずに行くのだ。
だったら休日にでも向かうのが一番かもしれないと考えた末の結論だった。
正直、子供を失ってふた月も経たない女性のところに連絡も取らず向かうというのは前提としてどうかしているのだけれど。
それでも、場地くんもそれでいいと頷いたのを確認して、カレンダーにマルを付けた。
丸を付けて、ふと、直近の日付を見て動きが止まる。
そんな私を不思議に思ったのだろう。
怪訝そうな顔をして私の表情をのぞき込む場地くんも、それに気が付いたのか指折り数えて、誤魔化すみたいに笑っていた。

「もうすぐそこだな」
「…ほんとだよね。時間の流れ、怖いなあ」

私に提示されたタイムリミット。
正直、確かな根拠があるわけじゃない。けれど、覚えが無いわけでもなかった。
そして妙な確信もある。
12月18日。この日が、私が場地くんと過ごすことが出来る最後の日なのだと。

「大丈夫だよ。突き返されてもちゃんと渡すし」
「突き返されることはねぇって。安心しろよ」
「わかってるよ。場地くんのお母さんだもんね」

どの家庭の親も、必ず温かく優しいものかと聞かれると、それは首を横に振るほかない。
けど、母親について話してくれる場地くんの中に棘や陰りは感じなかった。
愛されて育ち、また本人にもその愛情はきちんと伝わっているのだろう。
顔も見たことのないその人の人となりを想像してみる。
私のその様子に拗ねたように唇を尖らせる場地くんは、どう見ても普通の男子中学生だった。

まるで呼吸をしているみたいに。
まるで肌に熱をもっているみたいに。

手紙に封をして、引き出しの中にしまって鍵をかける。
部屋の電気を消して目を瞑れば、私の意識は微睡の中へと溶けていった。

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よぞら(プロフ) - 本当に素敵な作品をありがとうございました。もう最後の2人のデートで涙が止まらなかったですし、触れられない…体温もわからない…って切なすぎてずっと泣いてました(泣)本当に大好きです。ありがとうございます!! (2021年10月14日 1時) (レス) @page31 id: 1a17489b7d (このIDを非表示/違反報告)
仁日 - 完結前なのにもう泣いた。文章能力高過ぎです。ゴイザラス。どうしようド性癖過ぎて完結したら暫くのたうち回る未来しか見えない。大好きです。愛してます。 (2021年10月12日 8時) (レス) @page15 id: 9efffd34d8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:晴海 | 作成日時:2021年10月7日 21時

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