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「…………そう言えばAさん、また最近絡まれてるんですってね」
悪戯大成功、とでも言いたげに、あの胡散臭い笑顔で大きな爆弾を落とした銃兎に対して、一切隠すつもりもなく面倒臭さを浮かべた両の瞳が細められた。珍しく、鋭く。
─────事実、ってことか。
何かを探るような視線に、挑発的に緩められた口元に、背中がひんやりとした。
コイツが時たま見せるソレが、本当に大好きで、大嫌いだ。
「…………A」
自分が想像し得る範囲よりもはるかに弱々しく、嗜めるように、存在を確認するように名前を呼ぶ。
ざあざあと、横殴りに降り頻る雨の音が嫌に耳に残って、俺様の声なんか簡単にかき消されそうで、心拍数が上がる。
「……………ん？」
左馬刻くん、と穏やかな目を向けてくるのを認めて、安堵とともに、器用なこったと思った。
女優でも目指してみればいいんじゃねぇの？
何を考えてるのか分からないその表情も、どういう思考回路なのか理解できないその脳味噌も、面倒臭さの中に時々殺意のようなモノを滲ませる瞳も、ゆるりと弧を描く唇も。そこらの女どもに向けるには勿体ない。俺様にだけ見せてくれれば、それで。
「………ちょっと煽り散らかしただけやし」
気にすることないで、と付け加えるAは、以前、一度だけ見た時と変わらず大層愉しそうで、銃兎の悪戯は失敗に終わるんだと悟るとさっきまでの心配はどこか遠くへ吹き飛んだ。
「だってさあ、めっちゃ美人さんに囲まれんねんで？」
長生きってするもんやなあ、と誰の心にも刺さらないようなことを平然と言ってのけると、さっきまでの刺々しい雰囲気は和らいで、その代わりにAの馬鹿っぷりが発揮された。
「Aは、美人に囲まれるのが好きなのか？」
ついでに、理鶯の天然っぷりも。
「まあみんなが羨むようなもんを持ち合わせてる人が、それを持ってへん私に嫉妬を向けてくるってなんかおもろいよね」
あはははは、と笑みを浮かべて満足したのか、次のたこ焼き焼くか〜と間延びした声で呟いた。
よっこいしょういち、と立ち上がるとくるりとひと回転。足元で翻るスカートの裾が綺麗で、こうすれば、と計算しているかのようで、コイツって数学得意だったっけかとふと思った。
「あとは頼んだで、お巡りサン？」
にっこりと、それはもう完璧な笑顔を浮かべると、たこ焼き器を一瞥した。
「なにその遠慮のかたまり」
「なんだよ遠慮のかたまりって」
「え、いや、それやん」
続く (更新停止中)
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作者名：愛 鈴 | 作成日時：2020年3月16日 21時
