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「……失礼しました〜」
濡れ鼠くんの言葉を無視して私は潜り戸を閉めた。
だって怖くない？確かにパッと見は好青年だったよ？
だけど『好青年(びしょ濡れの姿)〜泥と草木を添えて〜』とかもはや不審者じゃん。できることなら関わりたくない部類の人だ。
「え！？ちょっと！？開けてください！！」
急に閉められて驚いたのか、ドンドンと戸を叩きながら抗議する声が聞こえる。いや、開けないよ？
「あーいやちょっとびしょ濡れの不審者を中に入れるわけにはいかないんで……雨の中申し訳ないですけど帰っていただけます？」
「た、確かにびしょ濡れですけど……って不審者！？」
「はい。こんな雨の中傘も差さずに走っている人なんて不審者、そうじゃなくても怪しい人であることは変わりないと思います」
例えここで攻撃を仕掛けてきたとしても、多分彼ひとりなら私は余裕で制圧できる。だがこんな天気の中戦いたくない。
だって今着ている服お気に入りだぞ！？泥まみれとかマジ勘弁してくれ！！
だがこれは戸を開けなければ良い話。だって開けなければ戦闘になることもないでしょ？……うん、問題ないね！
「いや問題大有りです！！」
「あら？」
「声に出てましたからね！？どこのどなたか知りませんが戸を開けてください！！」
おっとこれは恥ずかしい。思っていたことが全部口に出ていたようだ。まあだからと言ってこの戸は開けないがな！！！
「今の聞いていたらわかるでしょ？開けません！！！」
「はい！？僕びしょ濡れなんですよ！？助けようとか思わないんですか！？」
「……見ず知らずの人を助けるほど私は善人じゃないんでね」
どんな時代だろうと困っている人に片っ端から手を差し伸べていたらきりがないし、まず自分の身が持たないだろう。
私は善人じゃないからそんなことはしない。
勿論自分の知っている人には手を差し伸べるけどね？全員を見捨てるわけじゃないよ？そこまで性根は腐ってないさ！！
「……僕は助けます。誰が何と言おうと、助けを求める人がいるのならこの手を差し出します」
「へぇ、それは立派だね。すごいと思うよ。でもここは開けないから」
「……この雨の中、後輩が迷子になったんです。きっとひとり森の中で寂しい思いをしています。だけど僕は、僕だけでは見つけられなかった……！！」
何故か突然語り出した濡れ鼠くん。
戸を隔てているので彼の表情は見えないが、声から悲痛な気持ちが感じ取れた。
「……後輩？」
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