19：帰還した濡れ鼠 ページ38
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辺りが真っ暗なのは陽が落ちて夜になったからか、それとも未だに空を覆う分厚い雲のせいか。
きっとどちらも正解だろう。
小さな洞窟の中、伏木蔵は唯一の光である焚き火を眺め続けていた。彼は今、空腹で動く気力が出ないのだ。
雨脚は先程よりいくらか弱まっているがまだ外に出れるほどではない。
ひとりぼっちの狭い空間に永遠と止まない雨。
短時間であればスリルとサスペンスで乗り切れた伏木蔵だったが、何時間も続けば流石に
「お腹すいたなぁ……」
寂しさと不安が混じった声が初めて彼の口から漏れた。その言葉を皮切りに、どんどん寂しさと不安が心に溜まる。
「もしかしてこの雨ずっと止まないんじゃないかなぁ……」
「それで僕はこのまま帰れないんだ……」
あまりにも非現実的な発想だが、心身ともに疲弊しきった彼はもう正常な判断ができないのかもしれない。
そんな彼を追撃するように、辺りの気温が下がってきた。ブルリと震える。
彼は焚き火に枯れ枝を
しばらくすると身体は充分温まった。
だが依然食料が無いので伏木蔵の腹の中は空っぽだ。
でもそれとは反対に心は寂しさと不安で満タンになっていた。
「もし、もしもこのまま帰れなかったら……」
満タンになった心は簡単に溢れる。
「そうなったらもう誰にも会えないのかなぁ……」
「ろ組のみんなや先生はもちろん、学園のみんなにもう会えない……」
「じゃあ伊作先輩に謝ることも、この薬草の場所を教えることもできないってこと……？」
大切な友人達や優しい先輩、先生達の顔が脳裏に浮かぶ。
また、つい数時間前まで隣にいた伊作に対してはどうしてあのとき声をかけなかったのかと自責の念に
「……お父さんにもお母さんにももう会えないんだ」
笑顔で自身を送り出してくれた両親にももう会えない。
そう思ったら我慢していた涙がポロポロと頬を伝った。
そのとき、伏木蔵はふと思い出した。
いつだったか、今と同じように迷子になったあの日のことを。
もう帰れないと膝を抱えたあの場所を。
誰にも見つけてもらえないと涙を流したあの瞬間を。
そして、その涙を拭ってくれた人がいたことを。
「……助けて、お姉ちゃん」
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