月曜日のねじまき鳥【中】 ページ2
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「はじめまして。えっとー、江川真由美っす。江戸時代のエに普通に川と書いて江川です。真由美は真に由緒ある美しさと書いてそう読みますねー。敬語なれないし、みんなタメでよろしく！ スイパラ近日行く予定だから、興味ある人は話しかけてねー」
「自己紹介から食事の話しとか、猿かよ」という小馬鹿にした声が飛んだ。彼女の知り合いのようだ。続くようにして隅々から笑い声がカラカラと湧き上がって天井に消えていき、また湧き上がり、また消えていく。私は心臓を強く掴まれた気持ちになるが、江川さんは気にする様子もなく、快活に笑ってみせる。彼女の口から覗く八重歯が煌めいている。
「人類みんな猿が進化した動物だから。みんな猿の子孫だから」
わざとらしく眉をひそめて、拳で胸を三回叩く。再び品の悪い笑い声が教室中の窓ガラスを痺れさせた。その空気が冷め切らぬうちにと二番がさっさと自己紹介を終わらせてしまう。そしてあっという間に私の番になってしまった。
足がバカみたいに震えている。立ち上がった際に引っ掻いた椅子の音が、やけに鮮明だ。心臓に手を当てて、一回、二回、ゆっくりと酸素を循環させる。私を射抜く一つ一つの瞳が今にも捕食せんばかりにギラついて見える。こんなんじゃ胃がいくつあっても足りない。
「えっ……と、加藤優奈です。好きなことは読書で、嫌いなことはあまりないですかね。あ、体育系が苦手かもしれません」
とっさに顔に愛想笑いを貼り付ける。私の前に座る二番こと岡山さんが首を傾げる。
「それだけ？」
喉の奥に吐き出そうとした息が詰まった。え、と疑問符もつかない情けない声が漏れる。岡山さんに賛同するようにみんなが私に無音の言葉を投げかける。
なんだ。なんなんだ。それだけって、それしかないじゃないか。頭がショートしそうなのを必死に回して口を開く。
「よ、よろしくお願いします？」
意識的に口角を少し上げると、明らかに強張り不自然だった。次第に頬が紅潮していくのが分かる。床に穴が空くほど下を見つめて座る。よろしくー、という空気の抜けた風船のような声とまばらな拍手が無責任にも耳に侵入してきた。江川さんの時とはえらい違いである。
私の一個後ろの人が自己紹介をし始めた。その中には教室の温度を下げた私への棘が含まれている。不覚にも刺激された涙腺に、私は密かに死にたくなってしまった。
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九条あや(プロフ) - のばらさん» ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) 次回作も頑張りますね！ (2019年1月16日 22時) (
レス) id: 32ff1c1e1c (このIDを非表示/違反報告)
のばら(プロフ) - 上手いことは言えないのですが、凄く面白かったです！ (2019年1月16日 21時) (レス) id: 6840145f54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：九条あや | 作成日時：2019年1月5日 17時
