【呪術廻戦】高専辞めたら先輩病んでた【男主】 (ページ23)

今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:761,032 hit

二十三歩ページ23

震える手を誰かが掴む。

ゴツゴツとした男の手だった。

「零」

俺を呼ぶ声が聞こえる。

低い、男の声。

聞き覚えのある声。

懐かしい声。

『ぇ…？』

どうして、貴方がここに？

どうして、なんで、だって、貴方は___

目の前で以前より少し伸びた黒髪が揺れる。

俺の手をきゅうと掴むその人は、
俺に視線を合わせると微笑んだ。

「＂見つけた＂」

少し痩せただろうか。

目元も黒く、疲労が目に見える。

だけど、その微笑む姿は変わっていない。

『げ、とう先輩…』

もう呼ぶことはないと思っていた名前を口に出す。

すると、彼は俺の手をぎゅうと掴むと、
引っ張って立ち上がった。

力の抜けた身体がひょいっと軽く立つ。

「寒いね」

『そ、です…ね…？』

なんでここに？

なんで高専を抜けたんだ？

今までのことは全部先輩の仕業なのか？

なんで、なんで？

そんな疑問点が頭を埋める。

明らかに今までとは違う、違うはずなのに。

あまりにもいつも通りの夏油先輩に、
声をかけるのを戸惑う。

何も言えない。

目の前を白い粒がよろよろと過ぎる。

降ってきた雪は次第に強まり、
ふっと吐く息でさえ、辺りに溶け込むことなく白い。

ただ、白い。

そんな中、真っ黒な服装をした夏油先輩には、
現実味を感じられなかった。

『せん、ぱい…』

「…詳しい話は後にしよう」

『え？』

振り絞った声で訪ねようとしたが、
夏油先輩に遮られた。

彼は俺の手をじぃと見てから、にこりと微笑む。

「寒いだろう？どこか暖かい場所に行こう。
じゃないと、風邪を引いてしまうだろ？」

『そ、ですね…』

それは困るだろ？と
言いたげな目で訴える先輩にこくりと頷いた。

どこか暖かい場所。

と言っても、
こんな田舎じゃ…歩かないと、ないんじゃ。

そうぐるぐる考えていると、
先輩はくすりと笑って俺の両肩を掴み、耳元で囁く。

「何を戸惑っているんだい？
君の家が一番近いだろう？」

『っ…！？』

やっぱり、家がどこにあるのか知って…！！

そう思って、思わず先輩を睨めば、
彼は肩をすくめた。

抵抗する間も、文句を言う間もなく、

また、手を繋がれる。

家まで俺と先輩は何も喋らなかった。