探偵の用心棒5【文スト】【江戸川乱歩】 (ページ32)

今日:43 hit、昨日:256 hit、合計:35,797 hit

②四月莫迦ページ32

『"福沢さん"も撫でてみて。すごく毛並みがいいのよ此の子』

『ほら、』とトラ吉の頭を指差す。福沢は少し戸惑ったように目を見開くと、直ぐに嬉しそうに手を伸ばした。

福「！あ、ああ。では_______」乱「福沢さーん！！お昼一緒に食べよー！！」

ト「！？」

『あ、トラ吉！』

開閉音に吃驚したせいか、トラ吉は間宮の腕から抜け出し窓から出て行ってしまった。残された福沢と間宮は『…』と無言で目を合わせる。

『だ、大丈夫よ！また明日来てくれるかもしれないわ！』

福「ああ…」

乱「あれ？Aもいるんだ」

『今気付いたの？！てか福沢さんはアンタのせいでねぇ！』

そもそも、間宮は乱歩を待ち伏せしていたのだ。乱歩は「僕？」と辺りを見渡し、少し落ち込んでいる福沢の貌を見やる。

乱「福沢さん？」

福「否…今日は桜餅がある。二人とも食べていくといい」

乱「やったー！」

『…はぁ』

数十分後

『だから此の予算の金額がおかしいって云ってんの！アンタちゃんと確認してハンコ押したんでしょうね！？』

乱「あぁ、そんな申請もあったようななかったような」

『ちゃんとしなさいよ生徒会長でしょ！』

お昼を食べ終えた二人は、学園長室に入り浸っていた。厳密には、乱歩が此処から離れてくれないのだが。二人はソファに向かい合わせになり生徒会の仕事を終わらせようとしていた。

まぁ、それも"片方"だけなのだが。

乱「Aも副会長なら僕を支えるのが仕事じゃないか」

『アンタが基本的にちゃんとしてくれなきゃ意味ないわよね』

頰に血管を浮かせながら、間宮は学園への報告書をまとめ始める。

『まったく、"こういう仕事"も元はアンタの…』

乱歩はと云うと、頬杖をつきながら間宮の手元を眺め始めた。

乱「……」

『……』

乱「……」

『………なに』

乱「……字」

『え？』

乱歩はスッと間宮の手元を指差し、「持ち方もだけど」と口を開く。

乱「字、綺麗だね。すごく見やすい」

少し微笑みながら、彼女を褒めた乱歩。

『…！』

間宮は其れに目を見開き、ペンを静かに置いて一息つく。

『……………アンタが素直に褒めるなんて絶対何かあるでしょ』

乱「はは、素直に受け取らないお前も大概だよ」

『…ふん』

福沢はそれを、微笑ましく眺めていた。そして、気付いてもいたのだ。彼女の手が、少し震えていることも。嬉しそうに、下を向いて微笑んでいたことを。

_______四月莫迦終わり