謝罪 ページ33
ー 水世 ー
対面してAの名前を呼ぶのは、実に四年ぶりだ。何度も何度も読んだその名前をいざ口に出そうとすると、何故だか緊張してしまう。京介と並んで風間さんと諏訪さんと話をしている後ろ姿に、深呼吸を一つして声を掛けた。
「A」
私がそう声に出せば、Aはこちらを振り返ってくれた。無視されるかもしれないという可能性もなかった訳では無い。だから、反応してくれただけでもホッとした。
「少し、時間をもらえる?」
「話があるの」と続けた私の顔はすごく強ばっていると思う。実際、心臓の拍動が聞こえるくらい緊張してる。Aに断られるかもしれないし、今更とか言われるかもしれないし、振り返っただけで無視されるかもしれないし...失敗の可能性ばかりが頭に浮かぶ。それは、私がAにこれまでしてきたことが余りに酷かった自覚があるから。
拳を握り、Aの返事を待つ。そして、Aが体をこちらに向けて口を開いた。
『構わないけど』
そう言った表情は、何も表していない。怯えも、怒りも、不安も、嫌悪も、何も。
「ここじゃアレだから、隊室行こう。風間さん、諏訪さん、A借りますね」
私がそう言うと、Aは風間さん達に軽く挨拶をした。そしてそのまま私の後ろを一定の距離を保ちならが歩く。少し歩を進めていれば、慌てたように京介が後からやって来て、三人微妙な距離感で廊下を歩く。若干周りの目が痛いが、今はそれはどうでもいい。
ちゃんと、話さなきゃ。前に進む為に。
・
隊室に着けば、既に出水がソファに座って待っていた。そしてAと京介の姿を認識すると、自分の正面側に座るように促した。
Aと京介がソファに腰を掛けたのを見て、私も出水の隣...Aの正面に腰を下ろした。
頬にガーゼ、吊られた左腕、右脚に巻かれた包帯、左脚や右上肢、顔などに見える打撲の跡。先日の死闘がどれほどのものだったのか、嫌という程伺える。その姿に、心が痛くなり私は思わず顔を俯かせた。私のせいで...こんなになるまで...
『...それで、話って?』
中々話を始めない私に痺れを切らしたのか、Aが切り出した。その声に、抑揚は無かった。顔を上げて表情を見れば、そこにも変化は無かった。
ただ私と同じ顔が、こちらを見つめていた。
「...ごめん」
私は頭を下げた。
今までの事全てに対して、まずは謝罪をするべきだと思った。...例え、許されないとしても。
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紫苑(プロフ) - お疲れ様でした!めっちゃ面白かったです!!これからも頑張ってください<(_ _)> (2022年4月20日 17時) (レス) @page46 id: 3be26313f4 (このIDを非表示/違反報告)
瑞希(プロフ) - 完結おめでとうございます!お疲れ様でした!!うまく言葉に出来ないのだけれども凄かったです! (2022年4月20日 16時) (レス) @page46 id: ffd23d4fdd (このIDを非表示/違反報告)
あるみく(プロフ) - 完結おめでとうございます!最初の頃からワクワクしたり、時には泣いたり、綺世さんの語彙力の多さや文の作り方物語の作り方…etcなどに感涙してきました。少し期間が空いてもいくらでも待ちます!勉強頑張ってくださいね! (2022年4月19日 21時) (レス) id: 1448334fe6 (このIDを非表示/違反報告)
綺世(プロフ) - 焙じ茶さん» コメントありがとうございます!焙じ茶様の気持ち、しかと受け取りました。私も中々の限界オタクの時がありますから、こうなってしまうお気持ち、お察し致します笑焙じ茶様も体調にお気を付けてお過ごしください。今後ともご愛読よろしくお願いいたします! (2022年4月5日 0時) (レス) id: d271d60620 (このIDを非表示/違反報告)
焙じ茶 - お体に気をつけて更新頑張ってくださいね!!応援してます!連コメすみません! (2022年4月4日 20時) (レス) id: 0167f82c96 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:綺世 | 作成日時:2022年1月19日 0時