W - truth - 【ワールドトリガー】

大規模侵攻XXIII ページ24

- 隠岐 -

Aちゃんの保護の為、人型の対応を任された俺たち生駒隊と二宮隊。
人型の黒トリガーの性質上、銃手・射手・狙撃手が対応し、攻撃手はAちゃんの保護と護衛をする方向で決まった。現在交戦中の二部隊で、狙撃手は俺しかいないから来るときに備えて身を潜めてスコープ越しに人型を見る。

狙撃手界隈では、俺とAちゃんは所謂仲良しさんだ。同い年の狙撃手はAちゃんのほかに奈良坂君もおったけど、今でこそ普通に話すけど非常に話しかけずらかった。ほら、奈良坂君表情筋があんまり動かへんから。それを見たAちゃんが声をかけてくれたのがきっかけだった。

ある時、聞いたことがある。
彼女が、何故ボーダーに入隊したのかを。


『…殺したい奴がいるの』


少し間が空いて、そう返ってきた。普段の温厚な顔からは想像もつかない、冷えた声と表情。
驚きで言葉に詰まっている俺の方を見ることなく、飲んでいたココアの水面から目線を上げラウンジに生けられている紫色の花を見た。


『そいつを殺せるなら、死んでも構わないと思ってる』


垣間見えた、高槻Aの本性だった。何故それが、俺に見えたのかは分からない。
でもそこで、俺は知ってしまった。Aちゃんの本当の目的を。本人の口から聞いたことは無かったけど、Aちゃんが精神を削ってまでボーダーに残る理由は「水世ちゃんを護りたいから」だと周りから聞いていた。

それは、この本音を悟られないための建前だったんだ。

虚弱体質で、大人しい印象で、人当たりも柔らかな彼女がこれほどまでの殺意を抱いていることを誰が想像できただろうか。彼女からすれば、水世ちゃんから嫌われている事はもう解決なんてしなくてよかったんだ。どんなに精神が病もうが、壊れようが、自分から家族と平凡である幸せを奪ったその人物を殺すことが出来れば、何でもよかったんや。


〈隠岐、ちょっとええか？〉


インカムからイコさんの声がする。そして、Aちゃんの背後を狙うように指示をされた。詳細を言われなくてもわかる、Aちゃんの指示や。死んでしまうかもしれないという危険を顧みず、自身を囮に選んだ。命を蔑ろにしたその行為に、俺は珍しく眉間に皺を寄せた。

そして、その時はやってきた。

俺のスコープに人型が入る。そのブレードを彼女の首めがけて振り下ろす。


「死なせへん」


無意識に出たその言葉と共に、標的に向かって引き金を引いた。

大規模侵攻XXIV→←大規模侵攻XXII

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す