最凶の魔法使い

第4話 ページ6

開いていた端末に、時計が表示され、読書に没頭していた頭が現実に引き戻される。
入学式まで、あと三十分。

？？「新入生ですね？会場の時間ですよ」

愛用の書籍サイトからログアウトし、端末を閉じてベンチから立ち上がろうとしたちょうどその時、
頭上から声が降って来た。

まず目に着いたのは制服のスカート。
それから、左腕に巻かれた幅広のブレスレット。
普及型より大幅に薄型化され、ファッション性も考慮された最新式のCADだ。

CADー術式補助演算機(Casting Assistant Device)。
デバイス、アシスタンスとも呼ばれている。
この国ではホウキ(法機)という呼称も使われる。
魔法を発動させる為の起動式を、呪文や呪符、印契、魔法陣、魔法書などの伝統的な手法、道具に変わり提供する、現代の魔法技能師に必須のツール。
しかし、CADがあれば誰でも魔法が使えるというわけではない。
CADは起動式を提供するだけであり、魔法を発動するのは魔法技能師自身の能力。

つまり、魔法を使えない者には無用の長物であり、CADを所持するのはほぼ百パーセント、魔法に携わる者である。
そして二人の記憶によれば、生徒で学内におけるCADの常時携行が認められているのは、
生徒会役員と特定の委員会のメンバーのみ。

達也「ありがとうございます」
名前「すぐ行きます」

相手の左胸には当然、八枚花弁のエンブレム。自分の左胸を隠す、ことはしない。
そんな卑屈さは、持ち合わせていない。
だが、劣等感が無いわけではない。

生徒会役員を務めるような優等生と、積極的に関わり合いになりたいとは思えなかった。

？？「感心ですね。スクリーン型ですか」

だが、相手はそうは思わなかったようだ。
二人の手で三つ折りに畳まれる携帯情報端末のフイルムスクリーンに目を遣りながら、
何が楽しいのかニコニコと微笑んでいる。

名前はここに至り、ようやく相手の顔を見た。
相手の顔の位置は、ベンチから立ち上がった名前より十五センチほど低い。
名前の身長が一六八センチだから、女性としても小柄な方だろう。
目線が、二人を二科生徒であることを確認するには、ちょうどいい高さ。

だがその眼差しには、彼女等を見下す一切の色彩が含まれておらず、
単純な、あるいは無邪気な、感嘆があった。

？？「当校では、仮想型ディスプレイ端末の持込を認めていません。
ですが残念なことに、仮想型を使用する生徒が大勢います。
ですがあなた方は入学前からスクリーン型を使っているんですね」

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