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「実弥くん!」
「ん、元気になったなァ」
十二鬼月との戦い後、当たり前のように医務室へと運ばれ、一週間程安静にしろとしのぶちゃんからきつく言われた。
この前抜け出して足くじいたもんなぁ。怒ってるしのぶちゃん可愛かったなぁ。
「お迎えありがとうね!」
「当たり前だろォ。甘味処行くぞォ」
「うん!久しぶりに羊羹と緑茶食べたいなぁ」
「緑茶は飲む物だろォ」
「…ちょっとよくわからない」
「わからないわけねェだろォ」
2人で笑い合い、1週間ぶりの甘味処へ足を運んだ。
「いらっしゃ…あら、久しぶりだねぇ」
「久しぶり、おばあちゃん」
いつも通りのおばあちゃんに安堵感を覚え、いつもの菓子を頼んだ。
「たまには窓側行く?」
「いいぞォ」
「やった!」
窓側の席に座っていると、おばあちゃんがやってきた。おぼんの上には、頼んでいた菓子の横に、見慣れないお菓子があった。
「おばあちゃん、このお菓子なぁに?」
「これはね、『ぜりー』って言うんだよ。おまけでつけてあげるから、食べてみなさい」
「えぇ!?いいの?」
「いいんだよぉ」
「ありがとう!おばあちゃん!」
すぷーんでつついてみると、なんだかぷるぷるしている。口に入れてみたら、冷たい不思議な食感が舌を伝った。
「ん!おいしいよ!」
「そうかいそうかい、それじゃ、ゆっくりしてね」
「うん!ありがとうー!!」
おばあちゃんは店の裏に戻り、実弥くんと私は「ぜりー」を堪能した。
「おいしいね!」
「そうだなァ」
これだけでもう十分、幸せだ。
これ以上を求めていたって何も変わらないから。
ずっと、ずっと、このままで。
「ご馳走様でした」
私は実弥くんに待っていてと伝え、彼のお皿と自分のお皿を店の奥にいるおばあちゃんに渡した。
「ばあさーん、お金置いとくなァ」
実弥くんのそんな声が聞こえ、私は急いで彼の元へ向かった。
「おぉ、ありがとねぇ」
「行くぞォ」
「えっ、ちょ、実弥くん!」
店を出た彼の後を追い、勘定を済ませてくれていた彼にお礼と謝罪の言葉を述べた。
「こういうのは普通男が払うだろォ」
「ちがうちがうちがうちがう」
「違わねェよ」
優しい。
優しすぎるんだよ、貴方は。
「えっと、今度なにかで…」
「うるせェ!!返さなくていいんだよォ!!」
「うっ…はい…」
実弥くんの威圧にあっけなく負けた。
ほんと、こんな時の実弥くんずるいよ。
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作者名:すいへ | 作成日時:2021年8月17日 22時