玖 ページ9
目の前で鬼の首がすぱりと切られ、鬼の体はその場に崩れ落ちた。
「…ぁ」
目の前にいたのは、紛れもない不死川くんだった。
「あぁ!!!首が!!!!首がぁぁぁぁ!!!」
「さっさと消えろ」
不死川くんは鬼の頭と体を森の方へ蹴りあげた。
「しな、ず」
「よく頑張ったなァ」
彼は崩れた私の体を抱きしめ、背中を叩いてくれた。それだけでも、嬉しかった。
「口開けろォ」
不死川くんがポケットから取り出した解毒剤を私の口に流し込み、無理矢理飲ませた。
「あり、がと、う」
吐き気を伴った痺れる体は動かない。薬は直ぐに効きはしないし、多分医務室送りだ。
「ほら、捕まれェ」
不死川くんは私の腕を掴み、私を横抱きにした。
彼の匂い、温かさ、そして優しさは
全て私に向けられた物であってほしいな。
「情け、ないなぁ。ど、うきに、たすけて、もらっちゃ、て」
「喋るなァ。辛いだろォ」
あぁ、貴方は本当に優しい。
だから、私の心からも離れないんだ。
「…不死川、くん」
「…なんだァ」
「ありがとう」
「…あァ」
彼の腕の中で、私は眠ってもよいのだろうか。
…いいか。
考える余裕もなく、私は夢の中へと落ちていった。
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気がつけば、馬車の中にいた。
隣には不死川くんがいて、眠っていた私に肩を貸してくれているようだった。
「…ふあぁ」
「起きたかァ」
「うん。おはよ」
今、きっとすごく幸せだ。
好きな人の肩を借り、そして私の頭の上に頭を置かれている。
これ以上の幸せなんてあるのだろうか。
「…なァ」
「…どうしたの?」
「…………」
彼は暫く黙り込み、息を吸って吐いた。
「…『A』って呼んでいいかァ」
断る理由など、どこにも無い。
「…うん。いいよ」
「ありがとうなァ」
「…『実弥』くん」
「…あァ、そう呼べェ」
「…ありがとう」
嬉しかった。
彼の名前が呼べて、私はもう幸せの頂点にいた。
揺られる馬車に好きな人と乗りながら肩を貸し合うなんて、出来るとも思わなかった。
ねぇ、
貴方を好きでよかったよ。
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作者名:すいへ | 作成日時:2021年8月17日 22時