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「たいちょ、」
「・・・A?」
隊室で本を読んでいた風間は、
やけに沈んだ顔で入ってきたAを見て本を閉じた。
「なにか飲むか?」
「ミルクティー。」
お湯はさっきコーヒーを淹れるときに沸かしたやつが残っていた。
それをもう一度温めてティーバッグが入ったマグカップに注ぐ。
コポコポという優しい音が部屋に響いた。
「ありがとゴザイマス。」
師匠の髪色を彷彿とさせるその飲み物に息を吹きかけ、
そっと口に当てた。
「たいちょー、」
「どうした。」
「親がいなかったらダメなのかな。」
マグカップをローテーブルに置いたAは自分の膝に顔を埋めた。
小さな背中は心許ない。
「誰に言われた。」
「知らない人。」
「ボーダーの人間か?」
「うん。」
「あんた親いないんだってね。」
「あんたなんてお情け枠に過ぎないんだから。」
「見捨てられないようにせいぜい頑張って悲劇のヒロイン演じてれば?」
広い基地の廊下
高い笑い声が響き渡るそこで、
Aの脳内には優しかった母親の笑顔が映し出された。
いつもは気にならない意地の悪い言葉たちも、
なかなか頭から離れていってくれなかった。
「確かにお前の父親は4年前に亡くなった。
母親は変わってしまい、寂しいかもしれない。」
「・・・・・・。」
「でも、俺たちがいる。」
風間の言葉にAは顔を上げた。
「悠人がいる、俺がいる。
菊地原も歌川も三上も。
忍田さんも出水や太刀川だっている。
お前のことを悪く言うやつもいるかもしれないが、
それ以上にお前のことを気にかけているやつもいることを忘れるな。」
「・・・好き。」
小さく呟いたAに風間はふっと優しい笑みを浮かべた。
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作者名:名も無き者 | 作成日時:2021年2月7日 23時